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アルバイトで自分自身に遭遇した大学生
アルバイトで自分自身に遭遇した大学生
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 この世の中には、三人自分とそっくりな人がいる。そういう昔からの伝説が、何となく良くありそうな都市伝説に思える。多分その類だろうと、最初は軽く考えていたのだ。
 大阪営業所は二年ほど前にできたらしいので、そのころからいる人達に、僕に似た人がいませんでしたか、と尋ねても、皆、首を横に振って否定した。
 そのことが原因かどうかは判然とはしないが、今度はアポすら取れなくなり、課長の座から平に降格された。それでも、地下鉄御堂筋線の梅田から南に向かって企業という企業を、隈なく尋ね、アポを取ろうと朝から晩まで必死に営業をした。
 すでに、三ヶ月ほど前に訪問した企業も、再度アポとりに挑戦したのだ。今度は、どこの企業でも、
「君が、去年きた時にはっきり断ったのに!」
 と、けんもほろろに馬鹿にされた。僕を無視してさっさと自分の席に戻り、僕を軽蔑で蔑む目でちらっと見て、自分の仕事に取り組むようなできごとが、二日も続いた。
 三日目には、入社して間もない頃に、数多くアポをとれた新大阪付近の企業に行ってみると、怒気と嘲笑を含んだ罵声を、思いっきり浴びせられた。
「つい三十分ぐらい前にきたので、はっきりと断ったじゃないか! 君は、何をしにきたのかね!」
 他の企業を回るうち、段々とその時間の間隔は短くなった。そして、とうとう目の前を行く自分らしき人物の一メートルほど後ろに、僕は追い付いた。
 女性なら、合わせ鏡で後ろ姿を見たことがあるだろうが、残念ながら、僕は、自分の後ろ姿を見たことはない。僕に似た人が目の前に居るのだろう! と、しか思えない。
 しかし、後ろにいると、前の人(自分?)の服装もしゃべり方も、全く僕と同じだ。
 前の人がアポを断られ、突然、後ろを向き僕と鉢合わせしたが、その人は僕ソノモノである。まるで誰もいないかのように、僕の体をすり抜けていく。
 振り返った僕は――その人も足がボンヤリとして、この世に実在していないことを確認して、ホット、溜息がもれた。面接の時に、本当は電車に乗らずに、愛車でのんびりと余裕を持って、早めに家をでた。それは四十年も前のことだった。大阪の御堂筋で制限速度を守り、面接会場の目と鼻の先で、赤信号に引っ掛かり止む無く急停車した。ところが、後ろからきたダンプカーにオカマされ、その弾みで交差点に入り、右横からきた五台の車に衝突された。愛車はペチャンコになり、当然ながら、運転していた僕は、即死であった。それを、死の瞬間の苦痛とともに思い出した。
 しかし、この世の中には自分に似た人が三人いるという言い伝えは、本当だと感心した。

 今、僕が手にして、レコードプレイヤーで聞きたい四十年前の曲は、(結婚しようよ)、(この広い野原いっぱい)、(瀬戸の花嫁)、(女のみち)、(旅の宿)、(どうにもとまらない)、(喝采)、(さそり
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