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アルバイトで自分自身に遭遇した大学生
アルバイトで自分自身に遭遇した大学生
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結果、月給はさらにアップして、ゆうに四百万円を超えた。
 月末になると、前月分の給料を現金でいただき、封筒に入った万札の束は、横にすると見事に立った。
 僕に、なぜそんなにアポがとれたのだろうか? なぁーに簡単なことだ。「世間知らず」がキーワードだ。どんなに大きな企業であっても、また、話す相手がどんな肩書を持つエライ方であろうと、皆、僕と同じ人間ではないか?
 世間知らずの僕は、小さな会社が多くあるマンションで、黒地に金色でS組と表札を掲げている部屋をノックすると、ドスのきいた野太い声で、「誰やー」と問われた。身分を告げると、眼つきが極端に悪くて、若いのに上から目線をした僕と同じような年齢の人が、ドアーを乱暴に開けた。大きくて立派な机の上に、皮靴のまま足を乗せている人に挨拶をして営業すると、
「聞かせてみー」
 と、言われた。プレイを終わるや否や、
「気に入った、商品が届くまで、その電蓄を置いていけ!」
 と、駄々をこねられたので、先方の言う通り営業用電蓄を置いて帰ることにした。営業所に帰ると、そんなヤーサンに引っかかったのはバカ者だ、と所長からクドクドと長い間、説教された。営業所にある電蓄を自前で買わされ、これでその後の営業活動をする羽目になった。
 ところが、その後、
「お前が気に入った!」
 と告げられ、彼より多くの紹介をいただいた。車関係がほとんどだった。紹介先の町工場の社長にお会いした。すると、挨拶だけすれば、何もしないのに申込用紙にハンコの押印を含め、必要項目に黙って記入して下さった。そのような契約は二十九件にもなった。その都度、お礼のTELをさせていただいた。
「ああー、契約できただろう!」
 とだけの素気ない返事だった。だが、人を見かけで判断してはならない、という貴重な教訓を僕は得た。

 僕は、朝の八時半に大阪営業所に出勤する。
 最初に、部下の一日の行動計画を確認し、九時にはそれぞれアポをとるため企業回りをさせて夜九時頃までプレイをした。
 ところが、四か月を過ぎたある日から、突然奇妙なできごとに遭いだしたのだ。
 部下のアポでプレイをしだすと、なぜか必ず、アポ担――企業側のアポを引き受けてくれた部長、社長――が言った。
「その説明は、四年前位に君から聞いたよ」
 僕は、まだこの仕事をして四ヶ月なのに……。
 どの企業に行っても、同じようなことを聞き始めた。当然、契約数は激減し、報酬もそれに比例して同じく激減しだしたのは言うまでもない。
 さらに悪いことに、部下のアポ数も減りだしたのだ。従って、僕自らアポを取らざるを得ない状況になってきたので、勤め始めのように、一日中、企業回りをせざるを得ない羽目に陥った。
 ところが、今度は、行く先々で、言われだした。
「二年前にも、君は来たじゃないか!」

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