サメに手足を食いちぎられた恐怖の魚釣り
[4/7]
[1]次 [9]前 最後 最初
今にも飛びだしそうだった。他の仲間達も同じだろう。
上部のコンクリートは平らで、六人はデカイ年無しのチヌを思い描きながら、思い思いの餌を付けてアタリを待った。上から下をこわごわのぞくと、水深一メートルほどの浅い海で、大きなチヌが群れで悠々と泳いでいる姿を見ることができる。
更に、その群れに混じり刺身や塩焼きにすると美味しい真鯛もいる。そればかりか、吸い物には最高の大きなウマズラハゲも遊泳している。それぐらい魚影が濃いのだ。
チヌは、河口の汽水域にもよく進入し、雄性先熟を行い、オス→メスに性転換する。二〜三歳までは精巣が発達したオスだが、四〜五歳になると卵巣が発達してメスになるのだ。成長により名が変わる出世魚であり、関西ではババタレ→チヌ→オオスケとなる。釣り人の間では、大物の呼び名として、五十センチメートル以上を「年無し」と呼んでいる。
釣りをはじめて十分もしないうちに、全員の竿が一斉に大きくお辞儀をしだしたので、慌ててレバーブレーキ式リールを巻き始めた。このリールは、レバー操作で糸のでるのを簡単に調節でき、強烈な突っ込みをかわしたり凌いだりするのが可能である。
だが、強い締め込みでなかなかリールを巻けず、それどころか反対に「さかな」に引っ張られ、リールが苦し紛れに逆回転し、太い五号のテグスが伸びて行く。皆、何とか足を踏ん張りながら、力を入れてゆっくりとリールを巻き始めた。互いにおまつりしながら、ようやく足下まで引き寄せたのは、チヌではない灰色がかった「さかな」だ。十メートル以上のタモを誰も持参していなかったから、竿を持っていかれないように渾身≪こんしん≫の力を入れて、ふう、ふう、ふう、ふう……とあえぎながら何とか上げた。
しかしながら、上がってきたのは……。
誰もが期待していた大物のチヌではなく、八十センチメートルほどのサメだ。その後の一時間で釣れたのは、サメばかりで、合金のスケールでこわごわ長さを測ると、約七十〜百十センチメートルだ。仕方なくサメを一か所に集めた。
干からびるのも可哀想だからと、心優しい日用品課主任の大谷君が、濡れた新聞紙をかけていたらしい。というのも、彼以外の竿が大きくたわみ、念願の「年無しチヌ」が次々釣れだして、誰もがチヌを上げるに必死だったからだ。
「ギャアァアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ……」
大谷君の腹の底から絞りだしたような甲高い絶叫が、周囲にとどろいた。その絶叫は、耳をつんざく悪魔の雄叫び以上に、周囲の空気を突き破る声だった。
全員が、彼の所に集まり目にしたものは……。
辺りに飛び散っている大谷君の手首と、手から飛びだした血飛沫≪ちしぶき≫だった。
彼は、出血多量のためだろう、早くも唇が異様に青白くなっており、しかも、赤い肉の中から骨さえ見
[1]次 [9]前 最後 最初
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ