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霊感体質の若者を襲う恐怖
霊感体質の若者を襲う恐怖
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[1] 最後
 今朝は、八時三十分から始まる一時限目に必修科目がある為、俺は七時過ぎの人いきれがムンムン漂いおまけに痒い耳すら掻けない満員電車の犠牲者の一人に、否が応でも甘んじざるを得なかった。
 やっと、最後尾の車両から吐き出されたJRのS駅で、H電車に乗り換えようとして、階段を
フラフラよろめき、数人に軽く当たりながら特急電車に何とか間にあった。最後尾の車両に乗っている人の多くは、Hの特急電車に乗り換えようとして慌てて階段を小走りで降りるのだ。
 日頃の運動不足が祟っているのかなぁ? 最近、スポーツはおろか散歩すらしていない。やっぱ、少し体を鍛えよう!
 
 案の定、JR以上の芋の子を洗うような混雑した車内で、子供の時に良くしたオシクラマンジュウを、ウンザリする程に何度も何度も繰り返さざるを得なかった。
 乗客が吐き出した水分で、微かにしか見えない窓外をぼんやり見ていた時、銀色に輝く草刈鎌を持ち、ボロボロに破れた服を身に纏い、翼を生やした死神を見たような気がした。
 目を瞬いた瞬間、それはもう既に視界から消え去っていた。
 俺の見間違いだろうか? それにしては、今でも脳裏にあのおぞましい姿は、明確に焼き付い
ている。誰かの悪戯だろうか? そんな事はあり得ない。電車は、時速百キロメートル以上のスピードが出ているのだから。俺の心に引っかかるが、何かの見間違いかもしれない。
 そうしておこう! 世の中、平穏無事が何よりで、心にストレスを溜めないのが極意だと何かの書にあった。
 その時、唐突にある小説の一部分が脳裏に浮かんだ。
 他の者の魂を捧げなければ、この俺が【死神】の犠牲になる。確か、ホラー小説にそう書いて
あった。その真偽はともかくとして、念の為にそれを実行して最悪の災厄を回避した方が賢明だ。
 そんな軽い気持ちで、窮屈な車内を他の乗客より頭の分だけ背が高い俺は、適当な奴を探して
周りを見回した。
 耳を気持ち良さそうに掻いている男がいるぞ! 俺がしたかったのに、のうのうとそれをして
やがる。チクショウ。あいつに決めた。【死神】さんよ! あいつに俺の代わりをしてやってくれ! お願いしまーす!
 半分、冗談のつもりだったが、その男はドサッという鈍くて嫌な音を発して倒れ込み、一瞬で
首と胴体が離れた。男女が発した鋭い悲鳴が、まるで小石を池に投げたように、急速な速さで、
周囲に広がった。
 首からは心臓の鼓動に合わせて、ドク、ドク、ドク、ドク……と血液が噴出している。血だまりが、うつぶせの男から徐々に広がっていく。顔半分はパックリと鎌で切られたのか、脳漿と切られた灰色の脳が、あたかも柔らかいきぬこし豆腐のように流れ出している。
 車内は、文字通り阿鼻叫喚が飛び交う地獄絵図だ。血も凍るような絶叫が、未だに車内に響き渡っている。
 
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