霊感体質の若者を襲う恐怖
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も鮮やかな緑の葉が木々を彩っている。その下を、俺は今まで味わった緊張感と恐れから解き放たれ、胸を張って大学へ向かう。もう霊と遭遇しないと知っているからだ。例え、同じ道を帰りに通っても、全身の筋肉という筋肉が強張り、血液という血液が凍てつくような恐怖に満ちたあの霊達二人には、もう会わないのだ。
歴史あると言えば良い耳触りだが、老朽化し煤と埃が浸み込んだ経済学部の建物の中にある事務所に、先ほどの遅延証明書を提出し、薄暗い階段を下りて地下にある喫茶店のドアーを開けた。
ホール担当のおばちゃんに不味いコーヒーを注文し、モウモウと立ち上る紫煙に目を細めながら、友達を探した。知り合いの数人に手を挙げ、簡単に挨拶を交わした。
久しく話していない木田を見つけたからだ。二百円のコーヒーを半分程残し、いつものようにハードカバーの哲学書に夢中になっている彼の前の椅子に、黒のダンヒルのバッグを横に置き座った。下駄顔には不釣り合いなデカイ丸い黒縁のメガネを掛けた木田は、まだ俺に気付いていない。
大きな咳払いをすると、やっと気付き、不思議そうな顔で俺を見た。
「俺が、妖怪にでも見えるのかい? アハハハハ。ところで、何を読んでいるんだい? 深刻な顔をして。『実存主義』関係の本なのか?」
一つ大欠伸をしてから、木田は真面目な顔をして語り出した。
「最近、超心理学に没頭しているよ。研究対象は、テレパシー、予知、透視などが含まれるESP(extra−sensory perception) とサイコキネシス(念力)だ。
加えて、臨死体験や体外離脱、前世の記憶、心霊現象をも研究している」
「へーえ。哲学にドップリ浸かっていたのになぁー。なにか心境の変化でもあったのかい? それとも、何かおぞましい体験でもしたのかい? まぁー人間は、常に変化を求める生き物だからなぁー」
俺の問いに答える代りに、木田は気難しい顔を崩さず、外に出ようと誘った。
コーヒーも半分しか口にしていないし、ダンヒルのたばこに、自慢の金色のカルチェで火をつけたばかりだったが、強い意志に従わざるを得ない雰囲気に押されて、彼の後に付いて行った。
さほど広くない泥で濁った池の前にある、半分朽ちたペンキの剥げかかったベンチに腰を下ろし、木田の言葉を待っているが、二十分程押し黙ったままだ。俺も彼にならい、地べたを一列に行進している、体長二〜三ミリで、胸部から腹柄節にかけては赤褐色をしている赤蟻を、ぼんやりと見ていた。
やっと、木田が重たい口を開いた。
「水野、君は霊が見えるんだろう? 是非とも協力して欲しい思考実験があるんだ。頼む!」
木田の顔には、何故か、はにかみ、自嘲と鬼気が宿っている。彼のこんな表情は、俺の記憶にはなかった。
「あぁー。いいよ。その前に、時間は早いけ
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