霊感体質の若者を襲う恐怖
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供が、この辺りでは多いのだろうか? 幽霊が出ると言う噂が近所で広まっていれば、誰も怖がってこの公園で遊ばないだろう。
今日も俺はその子に出会ったが、いつものように出来るだけ目を会わせないように努力するものの、思わず目が釘付けになってしまう。
前後の学生達は、何も気づかず歩を進めている。とは言え、明らかにその子を霊として見える者もいるが、そ知らぬ顔をしているのだ。彼等の顔には、おぞましい怪異を周囲に発散させている霊を無視しようという明確な意思が、浮かんでいるのだから……。
霊が見えるのも困りものだ。俺と霊的周波数が一致している霊のみ、実際に肉眼で見えるか、頭の中に映像化されるのだが……。もしも、常に霊の存在を感じていれば、精神に異常を来たし、今頃は、皮の拘束服で自由を奪われ、劣悪な待遇の【精神病院】という名の【監獄の囚人】になっていただろう。
なだらかで湾曲した薄暗い坂を登りつめる辺りで、いつもの老人の霊に遭遇する。彼は、長く伸ばした白い髭をしごきながら、突然変異で生まれた孟宗竹で,下部の節の間が交互に膨れて亀甲状になっている仙人が愛用していそうな杖を、体と一直線にして何もない空を指して喚いている。
「AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA……」
空気を引き裂く雷鳴よりも大きい声なので、思わず両手で耳を覆った。
ノルウェーの画家エドヴァルド・ムンクが千八百九十年代終わりから千九百八十年代初めに描いた絵画『叫び』の男そのものだ。極度にデフォルメされた顔は、まるで茄子のように歪んでいる。
彼の周辺だけ、濃い色あいの背景の空すらも歪んでいる。
確か、前回は、
「ZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZ……」
と言っていた。老人は余程英語に心酔しているのだろう。
彼は、一度も
「ああああああああああああああああああああああああああ……」
と、日本語で叫ばないからだ。
良い霊達ばかりなのだろう、俺に一切危害を加えた事は、これまで一度もなかった。
どんなに足掻いても、その場所から移動出来ない自縛霊達だ――俺には、黄泉の国へ送れる技量もないし、それが可能な苦行もしていないし、敢えてする気も毛頭ない。一応、同情はするが……。
同じ霊を見る事になるのに、それを結構楽しんでいる部分が、俺の心の中に大きな比重を占めているのかもしれない。
何人かの学生が、俺の様子を見て、
「クスクスクスクスクス……」
と笑うか、まるで精神異常者に関わりたくないと言うように、そそくさと俺から走って離れて行く。
毎度こうだから、今では、俺は気にも留めなくなった。
霊がいる坂を登りきり、明るい日差しが眩しい桜並木の道を一直線に進む。
四月には桜のトンネルになるが、今は五月初旬なので、目に
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