霊感体質の若者を襲う恐怖
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ろか、顔そのものがなかったの。肩まで伸ばした髪の毛だけが風に靡いていたわ。邪悪なオーラが、私達を包んだと思ったら、彼は、両手を合わせ、オレンジ色の燃えてるような玉を私達に向かって飛ばした。二人は上手くそれをよけると、土手の雑草を燃やし、その炎と煙が私達を襲ってきた。二人は、必死で逃げた。でも、服に火が付いたので、慌てて彼のいるため池に飛び込まざるを得なかった。だって、火傷しちゃうもん。
幸い、浅かったから溺れはしなかたけど、水が滴る顔を、彼に向けてよーく見ると……。
彼は、ドロドロに溶けだしたの。今までなかった目玉が、腐った卵のように溶け落ちながら、こちらに凄い怨念の嵐を吹きつけたの。目が、嵐を私達に凄まじい勢いで送るのも変だけど、本当なの。彼の体と衣服は、一瞬にしてため池に沈んだ。泡をブクブク出しながら、鼻もひん曲がるような臭い匂いを発散させ消え失せたの。
この事は、内緒にしようと二人で決めた。だって、この噂が広がれば、怖がって誰も田畑の面倒をみなくなるわ。そうなると、大変な事になるからよ」
山口は、機関銃のように早口で捲し立てた。ゼイゼイと喘ぎながら……。
彼女の小さくて早口で話す言葉を、一言も漏らさないよう全神経を耳に集中していたので、俺は、ドォーと疲れを感じ、全身に疲労物質が貯まったようだ。
その講義は、いつの間にか終わっていて、ぞろぞろと学生が出口に殺到している光景を、俺は、ぼんやり見ていた。彼女は心配そうに顔をし、俺を覗き込んでいる。
「君の話で、頭がクラクラしているだけだよ。もう、だいぶん良くなって来た。大丈夫。心配しなくても。次の講義はあるの? じゃぁ、外の喫茶店へ行こう」
そう誘うと、ニコニコとして付いて来た。
喫茶店で、お絞りでごしごしと音がする程顔を拭いたお陰で、全身に活力を取り戻せたようだ。彼女は、俺が元気づいたのを見てパァ―と明るい笑顔になった。
俺は、山口に、屋敷で出会った昨日の得体の知れない、おぞましい、怨恨に満ちた自縛霊らしき怪物の話を、事細かく話して聞かせた。
彼女は、俺の一言、一言に頷きながら、口を挟まず静かに聞いていた。
既に、彼女には俺が毎日出会う霊――おかっぱ頭で憂いと憎しみの混じり合った、大きな漆黒の眼をした九歳位の女の子の自縛霊や、彼の周辺だけ濃い色あいの背景すらも歪んでいる茄のような顔で白い髭を蓄え、孟宗竹と体を一直線にして、アルファベットを絶叫する理解不能な爺さんの話はしていた。
彼女とは、そんな仲でもある。俺にとっては気の置けない女性だ。
そんな山口が、突然、あの世に旅立ったのを聞いたのは、死後五日も経った日だった。
須磨にあるお墓目指し、兵庫県南部の加古川市と明石市に挟まれた稲見町の自宅から、祖母、両親、妹の家族四人を黄色のビートルに乗せて、山
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