霊感体質の若者を襲う恐怖
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が悉く目に入れば、気が狂う程疲れるという意味で、幸運だ。でも、残念な
がら、常に霊が見えないという事実は、誰かのようにTVに出演出来るスピリチュアルカウンセラ
ーになれないのだ。
山口は、一昨日の昼、ため池で奇妙な霊を見た話を俺にしてくれた。彼女の家は、ド田舎にあるから、ため池があるのは不思議でもなんでもない。
「あたし、その日は気分が重くって大学をサボったの。昼頃まで寝ていたので家族は誰も居ず、
一人寂しく居間でコーヒーとクロワッサンで軽い食事をしたの。退屈だったので、その日が仕事休
みのリサに、若葉を見ながら散歩でもしょうと誘ったの。同い年だから、話も合うし、幼馴染でも
あったのよ。昔よく土手に登って遊んだため池を見つけた。
少し暑かったので、そこに登って涼んだ。僅かな涼風が、髪の毛をすいて行くの。とても、気分が良かった。そこまでよ、清々しい気分でいたのは。
池の少しだけ沖に、こちらに背を向けたグレイっぽい背広を着た男の人が、釣りをしているよう
に見えたの。でも、何だか様子がおかしいの。釣りをするのに、背広姿だなんて。ほぼ中天の太陽の光が、池の細かなさざなみにキラキラ輝いているの。彼の姿は、半分程透き通って見えている。
嫌な胸騒ぎが、私を襲ったの。きっと、彼はこの世の人じゃないわ。私は、勇気を奮い立たせて、
彼に声をかけた。
『フナを狙っているの? こんな熱い昼間に釣れましたか?』
リサを見ると、彼女は、歯の根も合わないほどブルブルと震えているの。ハハーン、彼女にも見
えているな、と思った。そこで、私は、転がっている石ころを掴んで、彼に向かい力一杯何度も何
度も投げてやったわ。でも、悉く石は彼を素通りした。
次の瞬間、私は大声で叫んでいた。
『あんたは、既に死んでいるんでしょう! 多分、農薬を飲んでここで自殺したんでしょう。こんな汚い池に居ずにさっさとあの世へ行きなさいよ! 自縛霊なんて、格好悪いだけ。あたしが、戒を授けてあげようか?』
戒を授けるなんて、嘘パチよ。本当は、そこまで修行してないの。でも、そうでも言わなきゃこ
こから消えないと思ったの。
そう叫んだ途端、今まで晴れていた空はにわかに漆黒の雲で覆われ、彼が振り向いたの。
貴方は、多分、知っているよね。小泉八雲の『怪談』の中の『むじな』の話。
江戸赤坂の寂しい道紀伊国坂で、ある夜、商人が通ると、女が泣いているので、声をかけると、
振り向いた女の顔には、目も鼻も口もない。商人は夢中で逃げ、屋台の蕎麦屋に駆け込むと、蕎
麦屋は後ろ姿のままで
『どうしましたか?』
と商人に尋ねると蕎麦屋は
『こんな顔ですかい』
と、商人の方へ振り向いた顔は、【のっぺらぼう】なの。
でも、あたしが見た彼には、【のっぺらぼう】どこ
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