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霊感体質の若者を襲う恐怖
霊感体質の若者を襲う恐怖
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乗客は、窓ガラスが割れんばかりの大声で喚きながら、我先に他の車両へと逃げようとしているが、何も知らない他の車両の人々が大勢詰めかけるので、思うに任せない。
 まるで木々の葉を震わせる木霊のような騒ぎだけが、益々大きく車内に反響し、嘔吐があちこちにぶちまけられた。つられて俺も吐きそうになったが、何とか堪えた。
 俺が負うべき些細な責任――本当は大きな責任に違いない――が、脳裏を過った。でも、俺の
命に代えられない! 可哀そうという感情よりも、助かったという安堵の方が優先して当たり前だ。誰でも自分自身がこの世で一番可愛いのだから! たとえ薄情な男だと思われてもいい。第一、誰も俺の所業だと判別できる筈はないからだ。ヘヘヘへ……。
 車掌が連絡したのだろう、N駅に着くと大勢の警官、刑事に囲まれ事情聴取を無理やりされ
た。焦点が定まらず一時的にフヌケのようになった乗客、腰が抜けて立てない乗客も大勢いた。勿論、駅前にはパトカー、救急車が犇めいている。
 ストレチャーに乗せられ病院に運ばれる乗客も多数いた。
 この事件が起こった事で、俺は、一時限目の必修科目を受講出来なかった。
 職務尋問とも事情聴取ともとれる、上から目線の警察の質問攻めから解放されたのは、十時過ぎだったので、駅で遅延証明書をもらい、いつもの店できつねうどんとおにぎりを二つ食べてから、普通電車に乗り換えてK駅で降りた。
 
 大学へ行く四台のバスは、相変わらずの寿司詰状態だ。
 それを横目で見ながら、俺は、入学以来そうして来たように徒歩で学校に向かう。
 途中に昼なお暗い公園があり、いつも、そこでおかっぱ頭で憂いと憎しみの混じり合った九歳位の女の子に出会う。季節に関係なく花柄の半袖のワンピースを着、墓石のように押し黙って、真っ赤な靴で石ころを蹴って遊んでいる。その子の肌はペスト患者のように黒い、否、闇のように漆黒である。そればかりか、目、鼻の穴、口は、墨汁を更に濃くしたように真っ黒だ。
 顔には悪魔めいた凄絶で邪悪な笑みが張り付き、周囲の空気を凍ったように冷たくさせ、負のオーラと生魚か卵が腐ったような耐えがたい臭気を、辺り一面に発散させている。
 その子を見て、体中の血液循環が一時的に悪くなり、悪寒が背筋を走った。
 この世に多くの執着を残して、成仏できずに流離う悪霊となった地縛霊に違いない。
 ブランコや滑り台があるので、偶に近所の子供も遊んでいるが、誰一人としてそのおぞましい子にまるで気づかないようだ。
 人間は本来、霊感はあるが、母のお腹という神聖な所から、汚れだらけのこの世に生まれることで、徐々にパワーが落ちる。稀に、その力が残っている俺のような人間を「霊感が強い」と言うのだ。だから、子供なら見えたり感じたりしてもおかしくはない筈なのに……。霊感に恵まれていない子
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