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呪われた玉手箱
呪われた玉手箱
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つ、一カ月以内にまり子が懐妊する事。以上よろしくお願い致します!」
 ワクワクしながら、書き込み可能な大きなカレンダーに印を付けるのが、その日からの妻の日課となった。
 しかし、一カ月もとっくに過ぎたのに、なんの変化も生じなかった。
 既に、桜の咲く頃で、私達の心は、ウキウキしているのに……。
 やはり、単なる振動するだけの奇妙な手鏡だ、と夫婦ともども納得したのだった。

 私は、その後も相変わらず、同店で課の業績を伸ばしていった。
 営業企画担当次長の仕事もこなし出した頃、店改装の計画が持ち上がった。私を、認めてくれている店長が、最重要である店全体の改装コンセプトや改装後の利益計画を考案するように命じられた。
 そこで、等級的には次長に匹敵する私が中心となり、全課の主任を集めて、主に計算と諸々の計画を主導したのだ。もちろん、店長、営業企画担当次長、後方担当次長とも緊密に計画のすり合わせを行ないながら業務を遂行した。店長や次長にプレゼンをし、更に、大学の先輩である山口エリア長(数十店舗を監督、指導する、店長よりも一つ上の職位)と、直に店の改装コンセプトについて議論を交わした。
 主任代行は、衣料品課を全て経験して来ているから、私よりも衣料品販売には、たけていたので、課の仕事をほとんど彼に任せて、私は店改装に打ち込んでいた。
 ところが数か月後、ある問題で山口エリア長と意見の相違が出てしまったのだ。彼は、普段とても温厚な紳士なのに、その時は口角泡を飛ばし、顔面を真っ赤にして、私の意見に真っ向から反対をした。
 当然、それまで流通業の改装関係に関する書物を熟読し、勉強を重ねて来たのだ。あまつさえ、日本よりも十年先を進んでいる、と言われるアメリカの書物(もちろん原書)を読破してきたのに……。
 私は怒りがおさまらず、家に帰って事の顛末を妻に細部に至るまで話した。すると、彼女は、いきなり私を木箱の前に座らせ、未だに小刻みに震えている金色に輝く手鏡を出して、言った。
「きっと、これは、幸せな願いを実現する手鏡じゃなくて、その反対だと思うわ。不幸、または呪いを、現実に引き起す事が出来る、悪魔から届いた手鏡かも知れないわよ。きっと、きっと、そうだわ!」
 豊満な胸を精一杯前に突出し、まるで悪魔の御託宣のように、自信に満ち満ちた険しい顔をして言い放った。
「男は外に出ると七人の敵がいる」とは言うが……。もしも、妻の解釈が間違っていなければ……。ほんの軽い気持で、しかも半信半疑ではあったが、私がこの世から消えて無くなり、黄泉の国に行ってしまえば良いと思っている人物を、手鏡に向かって、思わず大声で叫んでいた。
 仕事上のストレスが、何層にも堆積していたのであろう。後に、天に向かい懺悔≪ざんげ≫したものの、到底ゆるされない愚かな行為だった。
 妻
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