291部分:第二十二話 消える希望と灯る希望その四
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第二十二話 消える希望と灯る希望その四
「そうされて下さい」
「有り難うございます。それでは」
「音楽は何がいいでしょうか」
「そうですね。今は」
「はい、今は」
「どうした曲があるでしょうか」
曲からだ。義正に尋ねたのだった。
「それをお聴きしたいのですが」
「色々ありますが」
「具体的には何が」
「これは」
ここでだ。義正は。
レコード、その蓄音機の側に置かれている数枚のレコードのうちの一枚を見てだ。顔を曇らせた。そのうえで困った声を出したのである。
「いけませんね」
「何があったのですか?」
「葬送行進曲です」
そうした名前の曲があったというのだ。
「これはいけません」
「葬送行進曲ですか」
「ワーグナーの曲です」
二人が時折話して聴くだ。独逸の音楽家のものだというのだ。
「その彼の曲ですが」
「それがその葬送行進曲ですか」
「はい」
義正は曇った顔で答える。
「いい曲ですが今は止めておきましょう」
「聴くことをですね」
「聴くべきではありません」
実際にそうするべきだと。義正は言った。
「もっと明るい曲にすべきです」
「ですか」
「はい、そうすべきです」
真理の身体、そして気持ちのことを気遣いだ。こう言ったのである。
「今は」
「ではどうした曲を」
「そうですね。それでしたら」
「他にどんな曲がありますか?」
「ベートーベンがあります」
またしても独逸の音楽家だ。国は同じだ。
「その運命という曲ですね」
「運命ですか」
「はい、運命です」
それがあるというのだ。
「かなり派手な曲ですが」
「そこまで派手なのですか」
「聴かれたことはありませんか」
「ベートーベンはあまり」
二つ並んで置かれている椅子の左手に座っている。その真理が答える。
「聴いたことがないので」
「そうですか」
「では」
真理はだ。少し考えてからだ。
そのうえでだ。こう義正に答えた。
「その曲で御願いします」
「運命でいいのですね」
「はい」
こくりと頷いてだ。そのうえで答えたのだ。
「それを聴かせて下さい」
「わかりました。それでは」
義正も頷きだ。そしてだ。
レコードを蓄音機にかけだ。そうしてだった。
二人で聴きはじめる。その中でだ。
彼も空いている席に座った。そうして二人並んでからだ。
義正にだ。こう言う真理だった。
「この曲ですが」
「派手ですね」
「ただ派手ではありませんね」
その重厚な響きの音楽を聴きながらだ。
そのうえでだ。真理は話すのだった。
「その中にえも言われる強さがありますね」
「それも感じられますか」
「感じます」
そうだとだ。真理は聴きながら話す。
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