第3章 儚想のエレジー 2024/10
離れた場所にて:きっかけ
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独りで悩んじゃうより楽になるかもだし、ね?」
まるで防衛するように背中を向けたヒヨリは、恐る恐る振り向きつつグリセルダの顔を窺う。小動物みたいだなぁ、と湧きあがる庇護欲を慌てて押し遣ると、数秒の間を置いてようやくヒヨリは重い口を開いた。
「………燐ちゃんから、逃げちゃった」
きっと、ヒヨリはこれについて後悔しているのだろうとグリセルダのは目星をつける。だが、スレイドとヒヨリは一件のホームを購入し、同じ屋根の下で暮らしていることを鑑みて、その間で遣り取りされる未知の情報量を懸念する。有り体に言うならば、同棲している両名の間で交わされるプライベートから《ヒヨリがスレイドから逃げる》に至った原因を割り出すことが極めて困難なのだ。踏み込んでも良い話なのか、先程のヒヨリの反応からして僅かばかりの呵責がわだかまるが、正当な手順で情報を聞けている筈だし、何よりこのままヒヨリが悩みを抱えたままにしておくことを見て見ぬままにしておくという選択が出来ないと、グリセルダは意を決して問う。
「それは、嫌なことをされたり、言われたりしたから?」
これはほぼ杞憂だと、グリセルダは考える。
スレイドがヒヨリを大切に――――むしろ過保護というべきなのだろうが――――しているのは理解している。何らかの負い目さえ感じるほどだが、同い年でありながら保護者として十二分に努めているというのがグリセルダから見ての総評だ。罷り間違っても意図的にヒヨリを不快にするような行いはしないだろうと見ているほどだ。
「………嫌なこと、じゃ………なかった………と、思う………」
問いに対して、ヒヨリはおずおずと答える。
言い淀む様子を観察するグリセルダは、その様子からスレイドへの気遣いや遠慮による言葉選びではなく、当人も自分の気持ちを理解していないのではないかと推測する。やはり、先の質問は杞憂だったと一蹴し、グリセルダは再び質問を向ける。
「じゃあ、仲直りは出来そう?」
「………わからない………」
「ヒヨリちゃんは仲直りしたい?」
「………うん、だって、このままは嫌だから………けど………」
ヒヨリは訥々と話した後、無言になって俯く。
しかし、これで外枠程度には事情が掴めたとグリセルダは情報を整理する。
これは純粋にヒヨリの精神面での問題ではないということ。加えて、この一件にはスレイドの存在が大きな要因となっていること。当初《ケンカ》という単語に敏感に反応したところから察するに、ヒヨリとスレイドとの関係に翳りをもたらす何かしらの出来事があったのだと推測する。ヒヨリから読み取れる終始不安そうな様子は、これまでに経験のないタイプの出来事だったのだろうが、幼馴染というだけに付き合いの長い間柄でも遭遇したこ
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