第3章 儚想のエレジー 2024/10
離れた場所にて:きっかけ
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戦乙女に加入した時期がほぼ同時期である点について、ヒヨリは時系列上の不審点ではなく直感からくる違和感として知覚していた。
あれだけ他人と関わる事を苦手とするスレイドと交友を深められたのは、偏に彼女の人間性に寄与する部分が大きいとヒヨリは推測するが、その経緯についてヒヨリは全くと言って良いほど情報が開示されていなかったのだ。つまりはヒヨリから見れば、同時期に未知の出来事が連続して起きていることになる。当然、本人は推論を以て違和感に気付いた訳ではないのだが。
常時であればすぐにでもグリセルダと何かしらの会話に花が咲くものの、幼馴染の秘密の鍵を握るかも知れない――――ともすれば、元凶という可能性さえある――――相手に、それでも普段から友好的に接してくれる相手に対して懐疑心を抱いてしまったことに対する自己嫌悪が更にヒヨリの口を重く閉ざすこととなった。
だが、グリセルダはスレイドに舌を巻かせるほどの洞察力を有していることをヒヨリは知らなかった。黙秘を続けるヒヨリの重苦しそうな横顔を観察して、グリセルダは何気なく一言だけ告げる。
「………誰かとケンカでもしちゃった?」
「ふぇう!?」
不意を突いて、唐突に核心を一言で突いてくるグリセルダの発言に、ヒヨリは珍妙な悲鳴を漏らす。物音に驚いた小動物を思わせるリアクションにグリセルダは内心に妙な庇護欲を覚えつつ、努めてそれを押し込めながら自分用のコップに注いだ茶をすする。変な声の後は再び黙秘を貫くヒヨリに、グリセルダもまた一言零す。
「スレ………じゃなくって、リン君とケンカしちゃった?」
「…………………………ぅぅ……ふぐぅぅぅ………」
「え、あ、うぇ!? ごめん! ごめんね!? 意地悪しすぎちゃったね!?」
今度はヒヨリも声を漏らすことはなかった。コップを両手で持って、その中を覗き込むような格好で俯く。いつもならば好奇心旺盛に核心を突いたことに賞賛の声をあげてくるのだが、今日に限っては悪夢を思い出した子供のような、いつ泣き声が炸裂するか分からないような気難しさにグリセルダも通常時の余裕を減じさせて咄嗟に謝罪しながら宥めた。確かにデリカシーのない物言いで悩みを土足で踏み荒らすような態度であったと自身を叱責する。
しかし、この一連の遣り取りからしてヒヨリの精神状態があからさまに不安定であることもまた事実であるとグリセルダは確信を得る。そうして慎重に言葉を選ぶことを肝に銘じつつ、事情を探るよう試みた。グリセルダには安易に話題を転換するような無責任な選択肢はなかったらしい。小規模とはいえ、かつてギルドの長としての役目を務めたが故の面倒見の良さ、その発露であった。
「その、お詫びというわけじゃないんだけど、もし良かったら私にお話だけでも聞かせてくれないかな?
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