竜宮城に行けた男
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けな自分に気恥ずかしさを大いに感じた。
私は眠気に襲われながら、女王に似たような質問をしているのに気がついた。
実体化すれば、当たり前だが睡眠を欠かせない。思惟だけの存在では不要だったから眠るのを無視できたのだ。特に、脳を休ませるのが人体には必須であり、重さでは千四百グラムほどの組織でしかない。しかしながら、生命活動に必要な機能が全て停止してしまう比類なき器官であるのだ。
女王にそのことを話すと、時間になれば全員が睡眠棟で七時間は必ず寝床に入るの、との答えだった。睡魔に襲われていると伝えると、色のトーンを押さえた特別室に案内されて体に吸い付くような心地よいベッドで、私は大の字になってすぐに眠りの世界に落ちて行った。
翌朝、女王に起こされるまで深くて安らかな睡眠をしていたようだ。それが証拠に、頭は霞≪かすみ≫が消滅したようにスッキリしている。
何年間かは美女達に囲まれた生活をしながら、この世界を探検して私は他人がとても獲得できない様々な無形の収穫を手に入れたのだ。無我夢中で知識を吸収し、心からここの生活を精神的にも肉体的にも楽しんだ。肉体が存在するにもかかわらず、私を苦しめていた性的欲求が生じないのは、この世界にいるせいだろう。
ところが、持って生まれた人としての性≪さが≫は悲しく、儚い≪はかない≫ものである。美しく日焼けした若い美女達の、身にあまるほどの光栄な歓待を受けた桃源郷以上の異界に、しばし、年月の経過を忘れていたのだ。
【積年の願望】を遂げた幸福感と達成感に、私は酔い痴れていたのだ。人間固有の宿命であろうか? 幸福の絶頂にいればいるほど飽きも早く訪れたのだった。幸福と飽きが入れ替わるのは、時間の問題であった。私も、この呪縛から逃れることは到底できなかったのだ。
二十一世紀にいた実存の自分に帰りたい願望が、日を追う毎にまるで風船のように膨れ上がった。筆舌に尽くし難いほどの美貌の持ち主であり柔和な人柄の首長である女王に、どうしてもその旨を、伝えざるをえなかったのだ。私の気ままな願いを伝えると、女王は、真珠のような輝きと気品に満ちた大粒の涙を流した。衣装で拭いもせずに落ちるに任せ、まるで可愛い宝石の塊を床に転がしたような小さくて儚い湖を創り出すほどに悲しんだ。もしも演技であるなら、また、私達の世界にいれば、きっと四回の最多受賞者キャサリン・ヘプバーンをも凌ぐアカデミー主演女優賞を獲得しているだろう。
おみやげにとおずおずと彼女が差し出したのは、狩野永徳の唐獅子図≪からじしず≫のような力強いタッチで、獅子≪しし≫が二頭描かれている漆塗りされた箱であった。
「開けぬ方が、貴方様の失望を招かないでしょう!」
意味深な言葉とともに手渡された。そう、玉手箱(?)である。それには、四ケタの数字を合わせるキーがあるので尋ね
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