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提督はただ一度唱和する
タイタニア
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「うち、忙しいんやけど?」
 国家の存亡をかけた一戦への布石として、単身で敵中へと進撃する第五提督室所属龍驤だが、殊更気負うことなどなかった。
 かつては南太平洋を一人で背負った女である。北海道一つで潰れるような柔な造りはしていない。
『深海棲艦の目的は人類の撃滅ではない、か。分かってたつもりだったけど』
『意味あんの? どーでも、本土は守らなあかんやん?』
『破壊されて困るような沿岸施設は、鎮守府と近隣の漁港のみです。現状の遅滞戦闘を、空母の攻撃圏内に内陸部が収まるまで続けられるのであれば、随分と戦力に余裕が出来るのではありませんか?』
「うち、忙しいんやけど?」
 何より、確信したことがある。これほどまでに振り回された北海道戦役だが、深海棲艦の本質は何も変化していない。過度の警戒も、戦略の変更も必要ない。これまで通り、またはかつてのように、提督が支え、艦娘が戦い、国がそれを援護すれば、どのような苦境であろうとも勝利し得る。
『それ、説得できるの?』
『大湊に関しては、身命をかけて』
『ほな、佐世保と呉か。ゆーても、動かせんが』
『あっちは休養と再編に回しましょう。ケツはうちが持つわ』
「忙しいゆうとるやん?」
 目の前の光景が証明している。
 派手に暴れながら誘引した結果、横須賀軽空母部隊への追撃は、完全に阻止された。空母を狙って寡兵をあしらい、電撃的な侵攻を果たしたはずの深海棲艦が、軽空母一隻のために、上陸直前で足踏みしている。確かに、慌てふためいている“大本営”の連中に知らせてやるべきだろう。
 だが、そうして現出する状況など、もはや説明の必要もない。
『ただ、北海道の深海棲艦が特異な動きをしているのは確かです。潜水艦については、まあ、納得は出来ませんが、理解は出来ます。その後の対応から考えれば、目から鱗でした』
『唯一、海中で艤装使えるからな〜。いや、やからて、狩り要員か』
『もったいないと思うのは、私たちが国から支援を受けているから、なのかしら?』
『大戦のようにされれば、とうの昔に干上がっています。そして、だからこそ佐世保と呉の負担が増している。結論はともかく、充分な材料になり得るかと』
 すなわち、波そのものが深海棲艦になったかのような、絶望的な物量の奔流。
「ええ加減にせぇよ。池の鯉か、自分ら!! 噛みつく暇があったら、大砲使わんかい!!」
『え? 急にどうしたの?』
「どないもこないもあるかい!! 今!! うち!! 戦闘中!!」
 ピラニアなどよりもよほど貪欲な有様で殺到する、無数の駆逐艦。愚直に突撃するそれらを、荒波を巧みに利用して躱しながら、龍驤は通信越しに怒鳴りつけた。
 風は吹き荒び、海面は激しく上下する。元は艦船でありながら、今は人であることを最大限生かした航法は、スケート競技に
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