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提督はただ一度唱和する
タイタニア
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で、どんだけ苦労してきたねん』
『戻れるなら、うちかて帰りたいわ。赤城の阿呆はぽやぽやしとるようで、回りのことなんか何も興味ない。加賀は不器用過ぎて、傷ついてばっかや。鳳翔は人の世話。あいつら、うち以外誰を頼るんや。放っとけんやんか』
『死にとないなぁ。あいつら無茶すんで。長門も金剛もわかっとらん。あんな、信用できん奴らもおらんのや。止める奴がおらな、すぐ潰れてまうで。うち? 元からぺったんこや。何言わすねん』
 新城が吹き出した。ペンを持ち、海図に向かう。突き刺さる視線を感じて、納得する。艦娘は兵ではない。軍人ではない。
『駆逐より強い輸送艦とか、深海棲艦は常識を知らん。ああ、潜水艦もおる。数は、四個ほどの群れか? 正確にはわからん。前後左右から、偏差で撃たれた。練度は高い。砲艦と射線が被っとらん。空母との連携もいい。三次元的に、追い詰めよるわ』
『その割に戦意が低い。いや、姫さんに近づこうとすると本気になるというか。どうも、向こうも上の無茶振りには苦労しとるようや。ごめんな。艦爆ガン積みやねん』
 海図に情報を書き込んでいく。必ず、役立てねばならない。瑞鶴が泣いている。鳳翔は戦慄いている。漣は、直立不動を貫いている。新城の口元には笑みがある。
『あかーん。艦爆じゃ、かすり傷や。速度、この場合は貫通力か。刺さらんから、力不足や』
 もう、千島で未だ警戒中の叢雲の声が聞こえない。距離がより近い、撤退中の龍驤との連絡も途絶えている。この通信を受け取れるのは、簡易的とは言え妖精さんの通信設備を持ったここだけだ。
『そろそろ、限界や。もし聞いとったら、第五の提督によろしく言っといて。仕事サボって、阿呆どもから目を離すなよて』
 世間話の延長にあるような最期の言葉とともに、声は途絶えた。だが、通信は繋がっている。まだ龍驤は戦っている。艦娘も、兵も、新城も、ただ、机に置かれた玩具のような通信機と、それに繋がる軍用無線を見つめていた。
『ゼロ・・・・・・・オイテケ』
 その声は、明らかに子供のものだった。だが、同時に子供では有り得ないほどの執念が込められていた。
『ほな、首置いてけや』
 新城すら息を呑んだ深海棲艦の姫に、龍驤は無造作に、不敵に告げて、通信は切れた。
 無線からはもう、雑音しか聞こえない。
「君たちは、このように在れるのか?」
 沈黙が帳を降ろす。
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