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提督はただ一度唱和する
タイタニア
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やか。発艦に問題なし。
 網走沖に五十q圏内と言うことは、既に航空機の攻撃圏内だ。新城は振り返る。
「鳳翔殿を呼び戻せ。出撃を依頼する」
 棒を飲んだようであった兵が動き出す。待機状態であった他の兵にも、集結を命じる。新城の頭にはこの時、撤退の二文字しかなかった。
 鳳翔が駆け込んでくる。
「申し訳ありませんでした。空母はすぐさま動けます」
 瑞鶴が、「え?」という顔をしたが問題ない。混乱から立ち直っていないだけだ。新城は頷き、若菜に連絡する。
「大尉殿、敵が迫っております。直ちに撤退すべきです」
 返答には幾分時間がかかった。
『見捨てるというのか?』
「はい、いいえ。そうではありません。撤退中の軽空母を収容の後、撤退します。ですが、積雪のため、移動には時間がかかります。身軽なスノーモービルだけを残して、雪上車は順次出発させるべきです」
『そうではない。今、海上でただ一人奮戦する勇者を、ただ置き去りにするというのか』
 何を言っているのだろう、この莫迦は。極めて率直に、新城はそう思った。
「海上でのことであります。我々に出来ることはありません」
『だが、彼女が陸に辿り着きさえすれば、援護出来るはずだ』
 不可能だ。いや、例え可能であったとしても、龍驤には足止めをしてもらわねばならない。
『今より、海岸に向かう。上手くいけば、大湊との航空戦の最中に到着出来る。一時的であれ航空優勢があれば、艦娘と協同して、深海棲艦の上陸を阻止できるはずだ。そして、龍驤を回収して撤退する。そうすれば、雪が奴らの侵攻を阻んでくれる。逃げ切れるはずだ』
 何があったのだ。若菜は確かに、才気溢れる人間ではない。だが、このような無謀を口にする人間ではなかったはずだ。むしろ、決断に迷い、失敗を恐れて慎重に過ぎる手順を踏むことを好んでいた。
『幸い、敵は少数だ。大湊の援護があれば、撃退も可能かも知れん』
「いや、大艦隊ですから」
 漣が顔を青くしている。駆逐艦を合わせて考えれば、六倍を越える戦力差である。確かに、深海棲艦の物量を思えば、少ないという考え方も出来なくはない。味方の戦力が増えるわけではないので、慰めにもならないが。
「大尉殿・・・・・・・」
『新城』
 反論を封じるように、若菜が新城を呼んだ。それは何かを覚悟した男の声だった。
『なあ、新城。どこに逃げればいいんだ? もう、俺たちは奴らの攻撃圏内に入っているんだぞ? この雪の中を、雪上車に詰め込まれて、一体一時間でどこまで行けるんだ? 新城。奴らのたこ焼きが一機でも俺たちの頭上に来たら、俺たちは終わりなんだぞ?』
 だから突撃するとでも言うのか。無謀を通り越して自殺である。新城にはとても許容出来ない。
「大尉殿、大湊が撤退を援護してくれます。今、単身、敵と立ち向かわれている龍驤
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