タイタニア
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気難しさを名前にしたような男の言う通りである。とかく、人の世は住みにくい。このまま思索に耽れば、実際、渦潮に消えそうな世情でもある。背後から迫る深海棲艦を、無造作にターンを決めながら裏拳で沈めると、龍驤は気合いを入れ直した。
「さーて、お仕事、お仕事」
この期に及んで、生への執着など見せるべきではなかった。黙り込んだ僚友に向けて、白々しい言葉をかける。
だが、返ってきたのは、思いの外あっけらかんとした自分の声だった。
『何言っとんの? 目的は果たしたんやから、帰ってきぃ』
「は?」
『深海棲艦の目的は、あんたなんでしょ? 易々と渡せないわ』
「意味分からん」
『私の提案が受け入れられたとしても、増援の到着には最速で四日。現実には一週間ほど必要です。もはや、私たちのように空輸というわけにはいきませんので、現状の戦力で防衛せねばなりません』
『つーか、無理やろ。この天候では魚雷も投下出来んし、急降下も自殺行為や。中止、中止』
「いや、もう見えとるし」
『何が?』
「敵本隊」
§
まだ時間はあるはずだった。敵主力は千島列島の確保のために、横須賀の水雷戦隊と激闘を繰り広げていた。横須賀が補給のために撤退し、小康状態となったのは前日のことである。
約二十個の艦隊が、入れ替わり立ち替わり千島列島全域で突破を図った。突破した艦隊は当然、包囲されるが、強引に別の突破地点の背後に回り、連携して脱出するという、狂気じみた作戦であった。損害は大きく、彼女らは戦闘能力を喪失した。
だからこそ、どれだけ悲観的に考えても、敵本隊の到着まで半日は時間があるはずだった。それだけの戦力を拘束出来ていたことは確認が取れている。
その半日があれば、旭川は山間部を抜けられた。そのまま北見周辺に展開するか、陸別へ撤退するかについては、若菜の中隊による工作次第だった。
海軍はその歴史から、深海棲艦の殲滅を望む。戦争初期には役立たずの最新鋭艦に乗って、壊滅するまで戦った。そして、字句通りあらゆる手段を用いて沿岸に居座る深海棲艦に突撃したのが陸軍だった。この生き残りが次世代の海軍であり、提督と呼ばれる者たちだ。
彼らは決して、戦友を貪り喰らった深海棲艦を許さないだろう。海軍の実働部隊を率いる提督のほとんどが、深海棲艦を不倶戴天の敵として認識しているのだ。
彼らがそれを自覚しているかは、わからない。だが、彼らにとって、海軍に課せられた国土防衛という任務は建前でしかなく、それらや国民の保護は、陸軍が担うべきだとの意識がある。
だから、深海棲艦の侵攻に際して定められた避難要領などの情報に無頓着なのだ。それどころか、深海棲艦や艦娘の研究に関する事項についても、あまり関心を払わない。
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