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提督はただ一度唱和する
タイタニア
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らいざ知らず、艦娘なら誰でも同じだろう。
 つまり、陸に僚友を逃がした判断と、本隊を見つけようとしている自分の行動自体に間違いはない。
 それが今は、妙にありがたかった。
 あれこれ読み間違え、慌てふためいたことは、いい。戦争だ。そんなこともある。
 だが、数で勝る深海棲艦の団結を促し、数に頼んでこれを撃破しようとするなど、愚劣の極みだ。そんな簡単なことを、誰も、自分も、彼女の提督すら指摘しなかった。考えつかなかった。挙げ句、推進した。
 これ程の慙愧があるだろうか。国内事情に振り回され、勝利し続ける戦況に驕り、成すべきことから目を逸らした結果が、六千人の民間人死者である。
 はっきりと明言しよう。徴兵提督たちが負けることなどわかっていた。すり潰すのが目的だったと言い換えてもいい。軍紀の乱れ著しい彼らを切り捨てることは、彼らを利用しようとする守原以外の誰にとっても歓迎すべきことだった。それらに従う艦娘も含めて。
 そのような外道の果てに、招いたのが国家の危機。笑えないどころの話ではない。しかも、すり潰されたのは徴兵提督ではなく、人類や彼女らが持て余して放置していた駐在艦たちである。提督から寵愛も信頼も得られず、国家から半ば無視されていた彼女らだけが、この戦役で唯一、義務を果たした。
 たった二百人である。十万を越える深海棲艦相手に最前線で何をすれば、決定的な役割など担えるのか。射耗し尽くすまで戦い、その身を投げ出して遅滞に努め、住民の避難を援護し、陸軍の盾となる。これ以上に望むことなど何もないはずだ。
 だが、彼女らは何も出来なかったと非難されているのだ。彼女らを喰らう深海棲艦を、彼女らごと撃ち抜いた陸軍が賞賛を浴びているのに。沿岸を食い尽くせば、海に帰る深海棲艦を撃退したと。
 大戦の頃、自分の艦内で乗員たちは様々な話をした。彼らはあの狂気の時代に、命令だから戦っていたのではなかった。隣の戦友と、銃後に残した家族、そして身に宿した責任感に命を捧げていた。大本営など、罵りの対象といっていい。
 自分はどうだろうか。駆逐艦の密集地に牽制の砲撃を放ち、互いに衝突して混乱する様を横目に、龍驤は考える。
 責任ある立場にありながら、責任を果たせず、後始末を下に押しつける。今の政府や統合幕僚本部を“大本営”などと呼んでいるが、自分も同じか、それ以下ではないのか。
 少なくともこの戦役は、あの大戦のように国民に望まれたものではない。放置された、憎まれたといえど、内に隠ったのは海軍の総意だ。そういえば、そのフォローに回ったのも駐在艦だった。鎮守府においては、末っ子以外問題児で有名だが、外に出れば受け入れられたのはそちらの方だった。皮肉なことである。
 龍驤は思う。人の体を得て、戸惑いを得た。慣れて、自然に振る舞えるようになっても悩みは尽きない。
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