タイタニア
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も似た華麗さだ。海中に半ばまで沈みながらの駆逐艦では、追いつきようもない。
それでも数を頼みに、強引に前方に回り込んだ一団がある。暗く、水飛沫の舞う視界と不確かな足元にも関わらず、龍驤は常に自ら、全方向に警戒を割いている。妖精さんには頼らない。
正面で立ち上がる波を利用して、進路を直角に変えるが、傾斜を上る運動が含まれるために大きく減速してしまう。それでも、波に逆らう後方のイ級ならば、置いて行けた。前方も横波に進路を逸らされているが、僅かに龍驤と進路が重なるイ級がいる。
波という不安定なものに乗る龍驤には不利な体勢だった。下手に避ければ転げ落ちる。波は直角を越えようとしていた。深海棲艦は、その波そのものに潜り込んで接近を果たす。
龍驤は器用に上半身だけで、体を捻る。下半身は波を捕まえて離さない。
遂に一匹が彼女に襲いかかった。開けた大口は、人類社会と艦娘の悉くを臓腑に納めてきた残虐な破砕機だ。龍驤は意図的に、左足を滑らせる。波を捕まえたまま、円筒状の側面を降ったのだ。
そこで生まれた急激な加速と遠心力のままに、拳が振り上げられた。激動する傾斜地という、恐るべき海面状況の一瞬を捉えて、自らの言葉を全否定する右の撃ち下ろし。飛び出した勢いのまま空中に漂うイ級の横面を、芸術のように捕まえた芯によって、粉砕する。イ級の歯が折れ飛んだ。そして、腰の回転を使い、別のイ級の鼻面まで拳を振り抜いてそれを防ぐと、崩れゆく波頭を避けてまた別の波へ。
踊るように華々しく、惚れ惚れするほど荒々しい。この上、包囲を避けながら、深海棲艦本隊へにじり寄っているのだから、卓越している。
『そんな、大袈裟な』
「大袈裟ちゃうわ!!」
『歴戦の龍驤さん、ですもの。さぞ、ご活躍でしょう』
「見せたるから来い!! 今すぐ!!」
『ごめん、撤退中やねん』
「誰のおかげや、この、この、クソがぁ!!」
流石に、自分とほぼ同じ存在には、罵声の言葉も切れ味をなくすらしい。というよりも、自死を避けたのだ。
『で? どうなの? そいつらの目的は掴めそう?』
「無茶いいなや。わけわからんわ。と言いたいとこやけど、空母やわ。間違いない。今、来た奴もうちの四肢を狙っとった。どうも、生きたまま連れ帰りたいらしい」
『なして?』
『アクタンでしょ。ああもう、ホントに意味わかんない』
『まさか、そんな、嘘やん? マジで?』
『私たちとて、大戦でのことは拭えぬ記憶として残っていますでしょう?』
『だからて。いや、まあ、心当たりがないでもないか』
「零戦飛ばしたら見逃してくれるんか?」
自分よりも背丈の高い波間にあって、そうぼやいた。流石に、この状況での発艦は厳しい。途端に、波へ突っ込んでしまう。深海棲艦のように、頭の帽子が口を開けたら浮いて出て来るという謎方式な
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