暁 〜小説投稿サイト〜
提督はただ一度唱和する
空母の矜持
[8/9]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
はない。むしろ、海中こそが主な生態圏である以上、人類を排除する積極的な理由があるのだろうか。いや、最大勢力である駆逐艦型は、その形状の割に泳力は低い。艤装を使わない場合、海底移動を主とするならば、海産資源の豊富な大陸棚は充分係争地たり得る。
 違う。そうではない。そもそも、深海棲艦がどれほど怨嗟の声を上げようとも、人類が標的とされる最も合理的な理由は、その膨大な物量を支えるための略奪にあると、とうの昔に分析されているはずだ。何故、忘れていたのか。
「まさか、食べ物の恨み・・・・・・」
「そこまでは」
 深海棲艦最大の謎は、永遠に謎となることが決定した。
「いや、説明してよ。何で通じ合ってんの?」
 艦娘を軍事組織に組み込むために努力するなか、どこかで深海棲艦に対する意識まで移り変わってしまった。彼女らに軍事的行動を強要しようとして、深海棲艦までそうであるように進んで誤解した。
 深海棲艦は、正体不明の艦艇型生物群、つまり害獣である。哨戒網など敷くはずがない。仮にそう見えたとするのならば、彼女らは狩りをしているのだ。
「何てことなの。では、今、こちらに侵攻して来ているのは・・・・・・」
「メシウマ?」
「君は何を言っているんだ」
「いや、あんたこそ。聞けよ。ねぇ、無視すんなってば」
 この情報を伝えなければと、鳳翔の胸に使命感が湧き上がる。だが、それを守原に伝える自分を想像して硬直した。このような状況を生み出した下地を作ったのは守原なのだ。彼がこの事実を受け止められるはずがない。
 下手をすれば、彼に報告した時点で握りつぶされるだろう。ここにいるのは守原閥の艦娘だが、目の前のこの男は、駒城の猶子である。足下が崩れていくような心地がした。
「深海棲艦の行動目的は?」
「よくわからないんでしょ?」
「そういうことだ」
「ねぇ、私が悪かったから諦めないで。すっごい傷つくのよ、あんたの態度」
「漣君、三行だ」
「半端にネタに走ったことをここに深く陳謝いたします」
「う〜、も〜ぉっ!!」
 涙ぐんで地団駄を踏み始めた瑞鶴を宥めながら、漣が説明している。つまり、この場で共有されてしまう。
 止めなければとも思うが、そのことに意味などあるのだろうか。小さな男だった。拭いきれぬ侮蔑が瞳の奥に渦巻いていることも知っていた。同時に、情を交わした相手へ冷徹に成り切れぬ、甘い男でもあった。その上で、女として立ち回った。手綱を握るのは難しくなかった。
 けれど、慕う駆逐艦に向ける優しさと暖かさは、嘘を通せぬ傲慢な彼の本当の姿かもしれないとも思った。不器用で、臆病で、生まれさえなければ、ただ純粋に愛することが出来たのかもしれないと、そう思うことがあったのだ。
 守原英康。彼が失われてしまうと思い至った時、鳳翔からは血の気が失せた。知らず頽れ
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ