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提督はただ一度唱和する
空母の矜持
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、かねてより、提督の海外派遣を政府が求め、海軍が拒否するというやり取りが繰り返されてきた。
 中世ではないのだから、国民が農奴のままというのは、誰にとっても歓迎できる状況ではない。だが、近代的な経済活動のためには、艦娘にばかり資材を投資してはいられない。効率的な資材調達のためにも、海外拠点の設置は急務であった。
 一見、資材調達は海軍にとっても有利であるように思える。政府がいくら求めようとも大型艦を運用したがる提督と、その立場を出来うる限り保護してきた海軍指導部なのだ。大型艦の建造には、試行回数を重ねるしかないとなれば、彼らこそがそれを求めそうなものである。
 しかし、彼女らは非常に資材消費量が大きい。人間大であることは伊達ではないと誇るべきことだが、やはり艦船なのだ。
 特に頭が痛いのが食品関係である。
 氷菓や羊羹をこの上ないものと喜んでくれるのは、駆逐艦だけだ。大型艦に容赦はない。一度の食事量が、白米で一升にも及ぶ空母も居るのだ。その上で、穀物の余剰生産がなければ成り立たない酒精を大いに好む傾向にある。
 広大な太平洋に散らばって資材を集めても、食料を生産出来るのは今のところ本土のみだ。当然数を増すだろう艦娘を支えられるわけもない。
 その為に海岸地域の再開発を求めている海軍だが、政府は首を縦に振らない。
 そもそも、なけなしの工業力を、大きく投入することで何とか成り立っているのだ。資材が不足したまま農地を増やしても、そこで働く人間が農奴では、生産量もさして上がらず、経済的な負担が増すばかりであるとわかりきっている。
 陸軍、または統合幕僚本部、さらに言えば将家も食糧事情の改善については賛成しているのだが、農奴は彼らの権力基盤でもある。むしろ、海軍に吸い取られて日露戦争当時と比較するような装備の陸軍の増強と、国家への軍事権の一部返還なども求めているため、まずは資材有りきの立場だ。
 思惑としては、軍事権を返還しながら兵員は開発に回して影響力を増やし、負担の大きな軍事費を抑制するとともに装備によって軍事力を維持するという、彼らだけに都合のよいものである。
 これを牽制し、なおかつ国民の海への恐怖や、艦娘への不信に対処しながら海岸へと人口を移していくのは至難である。
 このような対立がある中で、海軍は若く、問題の多い組織だ。本来ならば、政府や将家を相手に膠着状態など作り出せるはずもない。艦娘を擁することこそ大きな優位だが、それが弱みでもある。
 だが、政府や将家は一時、海軍の統制を放り出している。そのため、表向き海軍は自立した組織として、膨大な書類の山を代償に、政治勢力として拮抗してきた。
 これを単純に、政府の怠惰と捉えることも出来る。実際、提督たちはそう思っていた。だが、彼らに手渡されたのは、そのような経緯になった理由を示す
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