遠い彼の地
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の距離などを勘案した上で、提督は艦隊を立て続けに出航させて戦線を支えるのだ。
そして、艦娘の出撃には当然、申請、許可、命令、記録、報告、評価などの書類が付帯している。軍人であれば、“適当”にするのだろうし、上層部とて認可する。しかし、徴兵提督には出来ない。内規には、提督が行うよう定められた業務は、提督の裁量によって処理すべしとあるからだ。
艦娘の個性が提督によって一定ではないために、この文言は存在している。例え、連合艦隊の旗艦経験艦でも、書類を苦手とする場合もあるのだ。だから、自分の艦隊から適正を見繕って業務を行えと示唆するに留めている。もちろん、提督の責任において、省略や事後処理も許される。
だが、今の日本人にとって責任とは、失敗の尻拭いをさせられることである。艦娘はお上のものだと説明されている彼らが、下手に彼女らへ権限を委譲することは、身の破滅を意味するのだ。
そのような内情に対して、海軍は適切に手を打てなかった。
当たり前だ。提督が書類に埋もれるなら、それを総括して整理し、分析して公開するなど、諸々の業務に追われている彼らが暇なはずもない。問題は認識すれど、対処出来ないとなれば、統合幕僚本部に報告もしなかった。
挙げ句の果てが、政争による機能不全である。自分たちにも飛び火すると思った徴兵提督たちは、だから必死に訴えたのだ。農奴の時のやり方で。
直接では不平不満と突っぱねられる。周辺を連携して騒ぎ立てれば、頭のよいお上が解決策を用意してくれるはずだ。
実に強かと言わざるを得ない。実際、問題点ははっきりした。海軍が脆弱過ぎるのだ。
徴兵提督に組織を運営する能力がないことは、はっきり言ってどうしようもない。彼らが必要なのだから。問題はそれを支える組織がないこと。彼らを統制出来ていないことだ。
息子の口から滔々と流れ出る頭の痛い事実に、篤胤はうんざりしたように手を振った。
「もう、よい。わかった。保胤、弁えておるな?」
「少なくとも、西原と安東は抑えました」
実力が拮抗しているように見える五将家も、民主主義の皮を被ったこの国においては、大きな差がある。中央権力で守原。人気で駒城だ。
そして、中央は今、お留守である。
「一気に片付ける。陛下にも内諾は頂いた」
保胤は頷いた。篤胤は椅子を廻して、彼に背を向ける。窓の外を見ているのではない。表情は見えないが、どこか遠くを見るような仕草だった。保胤もそれに倣う。
義弟はこの遥か戦場にいる。
彼らは間に合いそうになかった。
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