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提督はただ一度唱和する
遠い彼の地
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ぜいであった境遇の人間が、突然、軍の官僚組織に組み込まれたら。
 彼らを補佐するために、着任と同時に初期艦が送られる。確かに彼女らは通常の建造で喚び出される艦娘と違い、艦隊運営のノウハウを知悉している。始まりの艦隊の構成員であった彼女らは、提督の戦死に伴って靖国にその身を捧げ、後世の礎となっている。現在の艦隊の基礎単位である六名編成は、彼女らと提督であった。
 それこそ、何もないところから現在の海軍の雛形を生み出した英雄たちである。人格はともかく、その過程は記録としてその身に宿っており、これまでのところ徴兵提督の艦隊運営に問題は報告されていない。
 だが保胤は、それが見かけに過ぎないことを確認してきたのだ。彼が視察に訪れたのは、横須賀だけではない。
 篤胤も、事の深刻さが想定を上回っていることには気づいていた。自分の息子だ。あの保胤が長期に家を留守にしながら、妻も娘も置いて真っ直ぐ、自分の許に訪れたのだ。これで察せねば親ではない。
 ことさら不敵な態度をとってはみたものの、保胤の説明によって浮かび上がるろくでもないものの輪郭に、血の気が引いていった。
「何とか彼らを統制しようと、諸手続きを煩雑化させたのもいけません。艦娘の待遇はよくなってはいますが、それは軍内部で敬意を払われる程度のもの。提督の業務を肩代わり出来る性質のものではありません。つまり、艦娘を手続きの要なく、完全休養させ、任務から引き離さねば、彼らが書類業務から解放されることはないのです」
 軍人経験者であれば、要領は弁えている。何と言われようと、秘書艦を酷使するだろう。日本には素晴らしい印章というものがある。
 だが、農奴経験者は違う。与えられた仕事が出来なかったり、怠けているという評価を下されれば、それはすぐさま生活に直結するのだ。なまじ、優遇された提督という地位を手に入れたせいで、元の農奴に戻るのが恐ろしくなったのだろう。その上、それなりに強かな気質であるため、上層部からの口出しにも敏感だ。彼らは、出来るだけ自分でやろうと試みた。
 そして、四個ほどの艦隊を廻せば、海軍の要求をほどほどに満たせることがわかった。彼女らが帰って来て、再び出撃するまで、どれほど艦娘が余っていても積極的に運用する必要はない。自分に好意的な美しい少女たちと、書類に埋もれているだけで幸せだったろう。それらの余裕が、艦隊全体の戦力向上のために用意されているのだとは、思いもしない。
 だが、護衛や掃海などを主任務にしていた彼らも、今回の戦役では本格的に参加を強いられた。本物の軍事行動に伴う提督業務は、彼らの能力を越えた。
 大破撤退の言葉があるように、艦娘は沈みさえしなければどのような損傷を受けても、早期に戦場へ復帰出来る。だが、失ってしまえば再び妖精さんと工廠に篭もらねばならない。そのため、戦場まで
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