遠い彼の地
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保胤は、咳払いをしつつ父の正面に座った。邪魔そうに流し目を呉れる面の皮が憎い。どうして母は父を残して逝ってしまわれたのか。
「視察を済ませて来たか」
息子の恨みがましい視線を振り払うように、篤胤は尋ねた。保胤も気分を切り替えて頷く。何から話せばよいのか。まだ、彼の中で整理できていなかった。
篤胤はそんな息子の様子を目にして、叱るように鼻を鳴らした。
「問題があるのはわかっておる。おまえがもっとも気になったのは何だ?」
父の態度に、保胤は恥じ入るように目を伏せた。自分の有様を自覚したのだろう。肩から力が抜けていき、大きなため息が漏れ出る。それでも数瞬考え、篤胤を見やった。
「覚えておりますか? 彼らが艦娘を休ませたいと要求してきたことを」
どこか訝しげにしながら頷く。艦娘の管理は提督の所轄なのだ。妙なことを要求してくるものだと、大いに疑問を持った覚えがある。
「結論から申しますと、艦娘は充分に休息しております。むしろ、過分、いや、実働数に反して余っていると表現してよろしいかと。横須賀には、現状においても多数の艦娘が待機したままでした」
息子の言葉がよく理解出来ない。北海道において、横須賀の水雷戦隊は敗北した。立場上、声高には言えないが、作戦や指揮の不備ではなく、単純に数が足りないところを、無理に押し通さざる得なかったことが敗因だと聞いている。
それなのに、横須賀に艦娘が余っている? それは一体、どんな冗談だ。
「艦娘や深海棲艦について、我々は何も知りませんでした。それ故に、提督と呼ばれる立場となった人間には、彼女らに関するあらゆる事象についての報告を義務付けております」
その結果が建造レシピなどの成果だ。結局は運に頼る他ないとはいえ、何らかの公算を持って資材を投入出来る利点がある。
この試行錯誤は過酷を極め、幾人もの提督がノイローゼで自殺した。艦娘も戦力として維持できる以上の膨大な数が喚び出され、解体の憂き目に遭っている。何らかの法則性を見いだそうとする上層部の執念は、遂に提督による艦娘の殺害事件にまで発展し、統合幕僚本部は妖精さんに土下座する事態となった。このことは、2・4・11事件として軍部の歴史に刻まれている。
また、これらの報告によって、正規空母の戦力維持に必要な、本当の資材量も概算ながら算出できた。統合幕僚本部としては、複数の運用について補給を保障出来ないとして、提督に警告を出している。
他にも士気高揚による戦果の向上や、装備の運用方法など、提督と艦娘の献身が海軍に及ぼしたものは大きい。これらを積極的に活用することで、徴兵による提督の促成が可能になったのだ。それは、日本に一時期の平和をもたらすほどの功績だった。
しかし、促成された提督にとってはどうだろう。彼らの多くは、農奴の出身だ。義務教育がせい
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