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提督はただ一度唱和する
遠い彼の地
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 だが、外圧に抗すべき組織に瑕疵があるのなら、それを支える中身の惨状は如何ばかりであるのか。少なくとも、中身の方が手を出すまでは、殻が圧力を跳ね返していた事実を思うに、内心はますます暗澹に沈む。
 頑なに保護されたフラグシップ国産車の中で、保胤は思い悩み続けた。護衛を兼ねる運転手の声がかかるまで、帰宅したことにさえ気づかないほどだ。今は愛する妻や娘の出迎えも、慰めにならない。
 彼は真っ直ぐに、父の元に向かった。
 駒城当主である篤胤は、書斎で本を読んでいた。入室の許可を求めたときの気のない返事から察するに、どうやら熱中しているらしい。息子の自分からしてみればいささかどうかと思えるような題名の、おそらくは漫画本を手にしている。
 父は義弟の影響であるなどと嘯くが、彼の知る限り、義弟がそれらを好んでいたのは幼い頃の短い期間である。義弟を言い訳に利用していただけなのだろう。現に今は、保胤の娘を利用している。そのせいであんな物を読んでいるのだろうが。
 もっとも、多少眉を顰めることはあっても、反対まではしない。妻や娘が、布教の犠牲になっているからというのもあるが、その姿勢が駒城の立場を国民寄りに見せているからだ。
 工業が国家の支援なしには成り立たないほど廃れ、農業が産業に占める割合の増加した現在の日本にとって、娯楽の提供というのはなかなかに無視し難い問題である。経済的な余裕がない割に、時間の余裕というものが意外と存在するのだ。特に、計画生産が基本となる場合には。
 理由は簡単だ。作業効率と工業技術保護のため、機械化され、農薬や化学肥料の使用を大前提とした農作業は、人間に係る手間を大きく減じる。そのくせ、従事者は素人であり、生産量は低く、連作なども管理者側の負担になるばかりで旨味が少ないとなれば、結果的に大規模プランテーションのような形態をとることになる。
 これだけでも、実に長閑かな農民生活を想像できるが、ここは日本であり、深海棲艦の脅威にさらされているのだ。安全な内陸とはつまり山岳地帯であり、海に近い平野の安全を担保出来ない現状では、狭い農地に対して過剰なほどの人的資源が集中した。様々な制約に耐えられるのは、偏に生命の存続を望むからだ。
 そして、経済的に自立出来ない、まさに農奴としか形容出来ない国民が溢れかえり、暇を持て余すという現在の形に落ち着いてしまう。それがいかに危険であるかは、説明の必要すら存在しない。
 これは国民の生活保護という側面もあるが、結局は国で面倒見切れない難民を企業に売り渡したというのが、現状の正しい理解だ。艦娘に頼りながら艦娘を憎ませ、その状況を政府が放置せざるを得ないのも道理だった。
 では国民がどのように時間を消費して生きていくかといえば、紙媒体に行き着く。テレビやラジオもあるが、電波を利用する以上、深海
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