過ごした時間
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視線はなくなった。寒さに麻痺していた鼻が、特徴的な薫りを嗅ぎつける。何事か言い募る軽空母鳳翔を無視して、新城は山城に近づいて咥えていたそれを握りしめた。驚く周囲と、剣呑な目を向ける扶桑。今さら、この段階で、新城の行動を咎めようとする無能ども。
「大麻、ですか」
火が付いたままのそれを、丁寧に握り潰す。上官への口調を保てたのは奇跡だ。彼女らは佐官待遇で、場合によっては新城たちに死を命ずることさえ出来る。それを、決して忘れてはならない。
もはや、新城の耳に人間の言葉など聞こえなかった。ただ、宣言した。
「言い訳は結構。今は、お互いに協力しあう、そうした間柄です。違いますか?」
知っている。貴様らは提督とやらが大事なのだろう。この凶相の男が浮かべる、あまりにも場違いな朗らか過ぎる笑みに、艦娘たちの顔が青醒める。新城は満足そうに頷いて、先導した。尻を向けたのだ。
見る限り、奴ら自身が連携など不可能。陸軍との協同など、考えるだけ無駄だ。
ならばどうすべきか。
決まっている。
全て台無しにしてやればよいのだ。
一介の中尉でしかない新城は、そう決意を固めた。周囲を走り回る者たちが同意の歓声を上げ、艦娘たちはただ立ち尽くしていた。
深海棲艦の来襲まで、あと一日。
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