過ごした時間
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単艦離脱した。
遺言は残さなかった。
§
厄介という他なかった。想定されうる中でも最悪にほど近い状況で、新城たちは迷っていた。
こちらの航空戦力を叩き潰すために、統制を保った深海棲艦の大軍が向かっている。どれだけ傷ついても、生き残り、適切な処置をすれば一日で再戦力化出来る艦娘の、しかも空母だ。どのように対応するか。中隊に過ぎない彼らに出来ることは少ない。それでも、救出せねばならなかった。
若菜は怯えながらも、義務を果たそうとしていた。少なくとも、それを迷惑に感じている士官はいないようだった。猪口も肩を竦めるだけだ。ひとまず、安堵すべき状況だったのだ。
部屋の片隅で千早に保護されていた吹雪が不吉な知らせを寄越し、この最果てに来客が来たと告げる兵に顔を見合わせた時は、最悪の事態だと嘆いていた。
現実が想定を上回ることなど、珍しくもないというのに。
迎えには新城が向かった。視線を送った第一小隊の隊長が頷く。準備を整えてくれるはずだ。そして目の当たりにしたのだ。
最も目に付いたのは、紅柑子の着物。ここが戦場であることを新城にすら忘れさせる佇まいで、穏やかに微笑んでいた。小柄であっても一際目を引く存在感に誤魔化されそうだが、その背後はまったく混沌としている。
煙草を燻らせてそっぽを向いているのは、航空戦艦山城。その姉である扶桑は頬に手を当て、不躾に新城を嘗め回している。落胆を隠そうともしない。
重巡愛宕は兵たちに愛想を振りまき、何故か空母瑞鶴は喧嘩腰。その他も似たようなもので、棒を飲んだような駆逐艦漣が、妙に愛らしく見えた。
わかっていたはずだった。生まれ故耳にした噂も、立場故知った情報も、自ら調べた知識もある。だが、これはと思わざるを得ない。摩耶も古鷹も未熟ではあっても、軍人であろうと意気込みだけはあったのだ。彼女らはそうなろうと、ひたむきに努力していた。
もしも、彼女らが提督の指揮下にあれば、きっと信頼に値する存在になれただろうと、新城ですら信じかけていたのだ。
それが、何なのだろう。まるで都内の悪所にでも迷い込んだような、この、あまりにも、爛れた雰囲気は。これが提督とやらに運用される、艦娘の姿だとでもいうのか。これが、あの純粋な娘たちの末路だというのか。
こんなものになれないからと、あの娘たちは泣いていたとでも。
すぐさま思い浮かんだのは、兵たちへの悪影響だ。これを見て、誰が頼りになる戦力が来たと思い込めるだろう。無聊を慰めに来たと誤解された方が、まだしもな有様だ。新城は戸惑いを捨てて、奥へ案内した。思い出したかのように、ヘリからの風を自覚して帽子を抑える。どれだけ自失していたのか。叩きつける風が、頬を切り裂くようだ。
建物に入り、兵からの
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