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提督はただ一度唱和する
回り道の風景
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あまり恨まれていないことだ。新城がどうこうよりも、守原が嫌われているせいだろう。艦娘を利用して政府や軍から譲歩を迫る遣り口は、人間を蔑ろにして化け物を優遇していると受け取られている。厳しい世相を反映して、軍にあっても苦しい生活を強いられている彼らは、艦娘を兵器としてしか捉えていない。それが不満の捌け口として機能しているため、守原は必要とされ、艦娘の国家における立ち位置は曖昧なままだ。
 何より、すぐ隣に軍の駐屯地があるのに、何故か北見で足止めされているという現実がある。ちょっとした意趣返しだろうが、ここまで彼らを運んできた車両を直ちに帰還させる命令はすぐさま達せられたのに、美幌の使用許可がちっとも降りないのだ。
 予想していた新城が、当面の滞在に耐え得る燃料などを確保してきたからまだ何とかなるが、若菜など命令通りに車両を返してしまうところだった。猪口が機転を働かせて、故障中ということにしたが、新城の留守中の出来事だったため、若菜だけでは深海棲艦と戦う前に死ぬかもしれないと、兵たちが震えているのだ。
 ただ、それを口実として、美幌に向かう許可が引き出せたのは僥倖だった。猪口の助けはあったものの、純粋に若菜の功績である。もっとも、それも一日遅れなのだから、よっぽど恨まれているらしい。
 無事に帰ることが出来たら、中隊全員にも義父の酒を振る舞うべきか。半ば結論の出ている悩みを弄びつつ、中隊は美幌に到着した。
 中隊一つで、旭川本隊の受け入れ準備など不可能ではあるが、遊んでいても仕方がない。美幌から持ち出せなかった装備の中には、実に頼りになる代物が転がっていた。雪上車、スノーモービル、スキーや橇もだ。
 北海道に駐留する部隊として、全員がそれなりに扱いを心得ている。簡単な整備と点検を名目に、半年の空白が埋まるように、訓練を施す。これまで狭い場所で大人しくさせられていた猫たちも、思う存分楽しんだはずだ。その過程で吹雪が雪と毛皮に埋もれてしまったことは、この遠征で一番の不幸な出来事だった。
 その吹雪が、何やら慌てた様子で新城の元に駆け寄って来る。何やら鬼気迫った態度で、猫にじゃれつかれる彼女を見かねて、新城が千早を呼ぶ。彼女は、中隊のリーダーであり、新城の飼い猫だ。あっという間に新城の前に猫たちが整列した。新城が兵たちに尊敬される、最大の理由である。吹雪はまだ、手間取っている。
「呼吸を整えてからでいい。通信か?」
 慌ててしまうとどうにも駄目になってしまう彼女のために、新城が先回りする。普段は真面目で、印象を覆すほどの優秀さを覗かせることもあるのだが、何か特別な星の元に生まれたのだとしか思えない人生を送っている気がする。
 荒い息を飲み込みながら、吹雪が頷いた。新城はこの様子を見物していた兵に目配せをして、若菜たちを呼びに行かせた。新城は勤めて平
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