回り道の風景
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うだけに、例外的に統制のとれた鎮守府であるが、武力というのは無言であるときこそが最も雄弁である。中立と謳うことすらせず、政治との関わりを避ける素振りを覗かせ、実績を積み上げて、独自の勢力と呼べるまでになっていた。この隠れた実力者に、これ幸いと政治的な働きかけがなされる。
もっとも、これについては派遣艦隊を統括する山田康雄中将より指揮権を預かった旗艦叢雲から、「方針には従うけど、方法についてはこちらに任せてもらうから」と予め伝えられたため、各勢力とも梯子を外された形になった。
そのお陰だろう。方針争いは陸軍と海軍の綱引きという、単純な構造になる。眼前に深海棲艦の大艦隊を控え、北海道の大部分を掌握する守原が、事前に主導権を握っているのだ。多少、取り返したところで大勢に変化はなかった。
釧路での迎撃だ。
中隊単独で深海棲艦支配地域に進出している新城たちのもとにも、これらの知らせは届けられた。その数に動揺していた兵たちに、落ち着きが戻る。
彼らにとって、上層部の混乱は面白くないものであったろう。敵を目の前にして、呑気なものだと呆れていたかもしれない。
だが、どうしても必要な手続きだった。五将家のほとんどが、陸軍の充足を目指すなか、守原は艦娘の取り込みを優先してきた。慧眼と言えるかもしれないこの選択によって、守原の勢力は拡大した。陸軍より人材を送り込んでおきながら、手綱そのものを手放したよその家とはかけ離れた、抜群の成果である。
そのため、守原は五将家のみならず、政府や中立の立場の者からさえ警戒されていた。どのような過程を経るにせよ、最終的には撃退されるだろう今回の侵攻は、その守原の経済基盤に間違いなく大きな打撃を与える。
当然、それだけで追い詰められるほど、守原も弱くはない。しかし、実質的な当主である守原大将の立場からしても、より海軍に傾倒していくことは想像に難くない。そして、法的な後ろ盾が何もない艦娘の政治的価値とはつまり、武力でしかないのだ。
深海棲艦の脅威に対抗することが国家戦略として優先される以上、それを座視することは、そのまま日本の支配権を明け渡すことに等しく、綱渡りの国内情勢が、決定的な事態にまで発展する危険を孕んでいた。
そのような面倒な事情に巻き込まれ、尖兵として投入され、挙げ句、取り残された新城としても、兵たちと同じく悪態の一つも吐き出したい気分だった。横須賀が早々と立場を明らかにしたため、現場での繋がりを期待されていた新城の中隊は、ただ孤立しているだけになってしまったのだ。
それが許されないのは士官として諦めるにしても、他人のそれを窘めざる得ないのは呪いか何かなのだろう。気楽に兵たちに同調する若菜の世話をしながら、新城は実家に帰った際に義父から取り上げる酒の選定を進めていた。
唯一の救いは、兵たちに
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