伸ばした手の掴む先
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していた。これまで必要だけに駆られて協力してきた二つの異種人類が、何らかの結論を得ようとしている。
それは、きっと、人類が夢想してきたどんなおとぎ話よりもろくでもないものになるだろう。
彼女には、それをどうこうする力はない。
だが、歩き始めねばならないだろう。進まねば取り残されるだけなのだから。きっと、今は蹲っているかもしれない誰かも。泳ぎ出さねばならない。流されるままでは、波は越えられないのだから。
そして、誰もが時代とともに未来を見つめたとき、猜疑と不和の彼岸に辿り着くのだ。
師団規模、二〇〇〇個艦隊の深海棲艦。
今、小笠原を攻めている艦隊がおおよそ二四〇個艦隊。レイテ沖に一二〇。編成も何もかも異なっているので、単純ではないが、兵力として日本はその三分の一ほどしか用意できていない。
敗亡の運命が迫っていた。
§
「それで? 摩耶とは何を?」
兵員輸送車に揺られながら、新城が尋ねた。既に兵たちの雑談ネタも尽きようとしている。若菜は不機嫌な沈黙を携えて、別の車両に乗り込んだ。先発させた小隊は、紐を解かれた犬のような勢いで飛び出していった。輸送車の中は寒く、どれだけ暑苦しい光景とて、たちまちに冷やしてしまった。
新城としては、貧乏籤に付き合わせた哀れな兵たちに、ささやかな楽しみを提供する必要に駆られていた。
案の定というべきか、無遠慮というのも烏滸がましい注目が、西田に集中した。
だが、新城に目をかけられながら平然としている男である。照れたような顔をして、しれっと答えた。
「いえ、訓練で負け続きでしたからね。再戦の約束を」
西田の言葉に応えて、次は勝つと誰かが叫ぶ。それをはやし立てる声と、西田を励ますためか、彼を叩く音が車を震わす。満更でもない様子で受け入れる西田と、それを不機嫌そうに眺める新城。
誰かがその視線に気づいて、輸送車は沈黙に包まれた。
新城がおもむろに口を開く。
「それだけか?」
「ええ、はい、中尉殿。それだけです」
訝しがる西田の顔を、何か珍しいもののようにたっぷり眺め、新城は盛大にため息を吐き出した。
そして言う。
「存外につまらん奴だな、君は」
西田は心外そうな、戸惑うような顔になって、言葉を失った。誰かが吹き出し、そして誰もが制御出来なくなる。
西田はヘタレの称号を賜って拗ねた。
笑い声を響かせながら、兵員輸送車は雪の中を行く。
戦場へ。戦争へと向かって。
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