如何にも悲しく
[4/5]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
と文明は、一度崩れてしまえば修復は不可能なのだ。自分にはそれを守る使命がある。愚かな国民の顔色を窺うことしか出来ない連中には、決して果たせない偉業なのだ。
だから、そのためには、自分以外の全てを犠牲にしても仕方がないのである。むしろ、喜んでその身を差し出すべきだ。人類の存続以上に尊い目的など、存在するはずがないからである。
全く最悪の貴族的思考でもって、そう守原英康は結論した。彼は一切恥じることなく、それを繰り返すつもりだった。
もっとも、積極的にそれを推し進めようと思っているわけではない。それ程までに事態が悪化するとは考えられないからだ。
今回の大規模な奇襲侵攻までの状況を鑑みるに、おそらく北方に深海棲艦戦力は存在しないのだろう。事前に察知された戦力移動は、こちらの陽動に連動したものではなく、おそらくこの侵攻作戦に合わせたものだったのだ。おそらく何らかの侵攻があったとしても、他の二つよりも規模の小さなものになるに違いない。
もちろん、油断は禁物であるため、万全とは言い難くとも、可能な限りの備えはしてある。
札幌に向かう航空機の中で、護衛の為に同乗する軽空母を見る。目をつぶり、周辺警戒中の偵察機と交信に集中しているのだろう。清楚を通り越して、どこか神聖ですらある横顔。そうでありながら、着物から覗くうなじと、ほっそりとした肢体から湧き上がる、柔らかい肉の質感。
確かに美しく、若々しい。神々しくすらある。男の劣情を刺激するに足る、極上の存在である。
だが、人口増加にすら何ら寄与することのない彼女らは、戦争以外で何の役にも立たない、奴隷以下の存在である。彼女らに比べれば、場末の娼婦の方が、余程人類存続に貢献している。
いくら戦闘力があろうとも、人類の技術を無為に貶めてしまうのであれば、それは深海棲艦と同じ、文明の敵なのだ。決して、人類の友などではない。妖精の走狗と言ってよい。
いずれ、一匹残らず滅ぼしてくれる。
そう内心で決意を新たにしながら、英康はにこやかに彼女に話しかけた。
「そう、気を張ることはないぞ、鳳翔。周辺の安全は確保されている」
その言葉に、彼女は静かに瞼を開ける。そして英康を見て、何もかも蕩かすような、優しい笑みを浮かべた。
「ありがとうございます。でも、提督の安全に関わることですから」
「お前には向こうでも働いて貰わねばならん。だが、予備へと退いていたにも等しいのだ。今から無理をする必要はない」
英康の言葉に、彼女は聞き分けのない子供を前にしたように愁眉を寄せる。母性溢れる仕草だが、壮年の域を通り過ぎようとする男に向ける表情ではなかった。英康の眉も顰められる寸前であったが、彼の手を鳳翔の手がそっと包む。
「お気遣いは嬉しいのですが、提督。これでも、お仕えする空母の中でも最古参として、訓練
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ