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提督はただ一度唱和する
如何にも悲しく
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を踏んでいる。国民など建前で、将家の都合よく動かせる農奴に過ぎないことは、当人ですら理解していることだというのにだ。
 英康の強引な手法は各方面からの反発を呼んだが、それによってなされた効果は絶大だ。だからこそ、彼の権力は中央にも及んだ。彼を支えているものは、艦娘と北海道なのだ。
 それが崩れようとしていた。艦娘は敗北し、北海道は荒らされ、提督という存在には無能の烙印が押されようとしている。そしてそのすべてが、英康の責任であると理解されているのだ。
 実際、英康の責任であった。提督との二人三脚であった艦隊運営を、艦娘に依存する形に歪め、提督を臨時雇いの管理人か何かにしてしまった。徴兵によって集められたにも関わらず、未だに曖昧な艦娘についての知識だけを詰め込まれた彼らを、軍人であるとは守原とて認識していない。
 そんな彼らを用いて行われた作戦は、北海道と太平洋航路の安全を、今以上に担保するためのものだった。専横とばかり責めるのは、彼以外が復興に積極的ではない状況では難しかった。南方への進出が行き詰まりをみせていたことも、事実だったのだ。
 しかし、今回の敗北で他の将家の判断に正当性を与えてしまった。守原は徒に国民を危険に晒したと非難される立場になったのだ。
 英康は必死で抗った。再び深海棲艦に国土を脅かされることは、現在の独占が崩れることを意味したからだ。不完全な海軍でさえ、国防はなったのだ。守原が作り出した現在の海軍にすべてを被せ、知らぬ顔で沿岸を開発し始めるのは見えていた。主導権を失えば、脆弱な海軍を権力基盤とする守原である。一気に、勢力は衰えるだろう。
 釧路での防衛は苦渋の決断だった。如何に広大な土地を有するとはいえ、北海道は寒冷地だ。嫌がる国民を移住させ、釧路“平原”を整え、破壊されたり老朽化したダムを修復し、一大生産地とするまでにどれほどの苦労があったか。
 大麻の栽培に手を出し、資金面では余裕を持てたとはいえ、一度は滅亡すら危ぶまれた国家なのだ。重機一つ調達するのにも、まず権力が必要だった。
 そうして整備したインフラを失えば、敗北した守原は、ただ食い散らかされるだけである。それならば、英康はためらうことなく、国民を犠牲にする道を選んだ。
 今は軍閥としての側面ばかりが強調されるとはいえ、元は巨大な企業団体である。非生産的な農奴を養っていかねばならない現状を放置しては、成長など欠片も望めない。技術は衰退し、文明は後退して、艦娘や妖精に頼らねば、人類はただ命を繋ぐことすら困難になるだろう。
 それはつまり、地球の支配者が、人類から別の何かにとって変わることを意味しているのだ。
 英康は六千人の犠牲と、自家の衰退の危機を前にして、自己を正当化する。
 生めば殖える命など、どれほど失われようと構わない。人類が積み上げてきた歴史
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