暁 〜小説投稿サイト〜
提督はただ一度唱和する
如何にも悲しく
[2/5]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
守原の王国であった。


                    §


 全ての王国がそうであったように、王が何もかもを支配出来るわけではない。それでも守原の影響力は、北海道に駐屯する陸軍にも及んだ。特に司令部のある札幌と、釧路を封鎖する帯広の部隊に顕著だ。
 新城のいる旭川は、オホーツク方面の支援と警戒を担当しているが、住民の避難が完了していたため既に焦土と化している。深海棲艦といえど、生き残れる環境ではない。
 その上で、艦娘による厳重な海上封鎖が為されていた。彼女らを支援しようとしても、大雪山などの山々に阻まれ、国道三九号線は復旧どころか、除雪で手一杯になる始末である。予備としての役割しか期待されていなかった。
 確実に北海道における覇権を築きつつある守原だが、代償として中央への影響力は削ぎ落とされつつある。既存の上層部は更迭が内々に決まっており、新たな人事にはうまく食い込めなかった。それでも彼には北海道を優先せざるを得ない理由がある。
 深海棲艦の侵攻により、日本の沿岸部は軒並み大きな被害を受けた。その時の恐怖は、日本国民の心に深く刻まれている。そして、沿岸部が奪われるということは、内陸も空爆の危険に晒されるということでもあった。海というのは、常に人々を脅かす存在なのだ。
 政府や軍としても、安全を担保出来ない沿岸地域は、人間の居住場所として選択肢から除外するしかなかった。それがどれほどの制限を国家に与えたかは、想像に難くない。
 だが、艦娘がいるのだ。他の将家よりもいち早くその有用性に着目した守原は、海軍で地位を得た。陸軍で言われるように、彼女らは人とも兵器とも定義出来ない、不確かな存在である。人格に依存する性能は、軍人への錬成が不可能であることを示し、その奔放な性質のままの運用を強いられるということでもある。
 だが、それが何だと、英康は思う。戦略次元ならともかく、彼女らは訓練などしなくても戦えるのだ。提督という、彼女らを生産出来る存在さえ用意すれば、その瞬間から戦力として期待し得る。これほど都合のよい兵がいるだろうか。簡単に数が用意できるというなら、深海棲艦の物量に対抗することも容易いではないか。
 彼の目論見は当たり、日本近海に限れば、漁業すら可能になった。そうなれば、沿岸は危険地帯ではなく、富を産む肥沃な大地でしかない。今以上の人口を支えられるばかりでなく、工業も発展が見込める。海は大量輸送を可能とする通商路として利用出来る。それらはすべて、守原の権勢を約束する、はずだったのだ。
 彼はこの思いつきを、誰かと共有しようなどとは思わなかった。何もかも、自家の影響力の及ぶ範囲で行った。目敏い者たちが、彼から漁業に関わる利権を掠め取っていったが、国民の感情などというものに配慮する莫迦どもは、未だに沿岸の開発に二の足
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ