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儚き想い、されど永遠の想い
280部分:第二十一話 忌まわしい咳その三

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第二十一話 忌まわしい咳その三

「だとしたら危うい」
「あの病といいますと」
「咳をしておられるのだ」
「咳といいますと」
「いや、決め付けは避けよう」 
 自分の言葉を打ち消してだ。義正はだ。
 そのうえでだ。こう言ったのだった。
「今の言葉は打ち消す」
「そうされますか」
「そうしたい」
 佐藤にだ。唇を少し噛み締めて話した。
「それでだが」
「それで?」
「神戸にいるのは幸いだった」
 こんなことをだ。佐藤に話したのである。
「そう思う」
「神戸にいることがですか」
「幸いだった。この町は気候がいい」
「そうですね。確かに冬は風に悩まされますが」
「しかし海があり山もある」
 今も見えるその両方を見回してだ。義正は佐藤に述べた。
「どちらも。素晴らしい空気を約束してくれる」
「冬の風は防ぐこともできますし」
「それだけいい気候だな」
「そう思います。それでなのですか」
「神戸でよかった」
 またこう言うのだった。
「まことにそう思う」
「そうなのですか」
「身体を癒してくれる」
「神戸の気候がですか」
「神戸自体がだ」
 街そのものがだ。そうしてくれるというのだ。
「有り難いことにだ」
「そうなのですか」
「また言うが神戸にいてよかった」
 しみじみとだ。義正は話す。
「それではだが」
「それでは」
「それではか」
「はい、奥様と共にですが」
「何処か奇麗な場所に行けばか」
「そうです。神戸でもとりわけそうした場所に」
 行けばいいというのだ。
「如何でしょうか」
「そうだな。それにだ」
「それに加えてですね」
「美味で身体にいいものを食べればな」
「さらにいいですね」
「伊太利亜の料理だが」
 ここで義正が話に出したのはこの国の料理だった。
「スパゲティというものがある」
「あの麺ですか」
「それだ。神戸にもそれを出してくれる店が増えた」
「あれは変わった麺ですね」
「うどんやそばとはまた違ってな」
「支那そばとも違いますし」
「麺は元々は支那からはじまった」
 このことは既に知られていた。歴史にも料理書にもはっきりと書かれていることだ。
「しかしそれが西にも伝わってだ」
「西。即ち欧州にですね」
「伊太利亜にだ」
 そのだ。伊太利亜にだというのだ。
「そうしてできたのだ」
「それがあのスパゲティだというのですね」
「そうだ。あれはあれで美味い」
 義正は既にスパゲティを知っていた。それでなのだった。 

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