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儚き想い、されど永遠の想い
279部分:第二十一話 忌まわしい咳その二

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第二十一話 忌まわしい咳その二

 言葉数も次第に少なくなっていた。その中でだ。
 暗くなるばかりだった。その彼女を見てだ。
 義正は婆やに尋ねたのだった。
「本当に何かあったのでしょうか」
「それは私にもです」
「わかりませんか」
「申し訳ありません」
 俯いた顔でだ。婆やも義正に話す。
「こんなことははじめてです」
「はじめてとは」
「はい、お嬢様はとても素直な方で」
「そうですね。嘘を言われることはありません」
「ですからいつも正直に話してくれました」
 そうだというのだ。今までの真理は。
 だからこそだ。余計にだというのだ。
「こんなことははじめてです」
「幼い頃より共にいる貴女にもそうした態度とは」
「やはり何かあるのでしょうか」
「なければです」
 それならばだ。どうかというのだ。
「ああはなられません。それにです」
「それに?」
「真理さんは非常に素直な方ですね」
「はい」
 このことは婆やが最もよく知っていた。彼女が幼い頃より共にいたからだ。
「その通りです」
「私もそれはよく知っています」
「そうですね。旦那様も」
「そう、あの方は非常に素直な方です」
 このことをまた言う義正だった。
「ですから。今も出ています」
「今もですか」
「はい、出ています」
 そうだとだ。義正は話すのだった。
「既にです」
「どういった風にでしょうか」
「お顔に」
 真理のだ。その顔にだというのだ。
「出ていますから」
「ではお嬢様は」
「やはり何かを隠しています」
 このことを婆やに話した。
「しかしです。今は」
「今は?」
「様子見ですね」
 それをすべきだというのだ。
「鳴くまで待とうです」
「そうあるべきですか」
「今は」
 徳川家康になるというのだ。それが義正の選択だった。
「そうさせてもらいます」
「そうされますか」
「落ち着いて待っていれば」
「やがてはですね」
「見えるものが出てきます」
 こう話してだった。義正は今はだ。
 真理が言うのを待っていた。そうしてだった。
 真理を見ていた。何も言わない真理を。
 真理は何も言わない。だが表情は暗くなっていくばかりだった。その彼女にだ。
 義正は常に傍にいるようにした。そしてだった。
 真理に茶を淹れ共に飲む。そうしたことを続けていた。その中でだ。
 真理は時々咳込むことに気付いた。それを見てだ。
 義正はだ。こう言ったのだった。
「まさか」
「まさかとは?」
「あれはあの病だろうか」
 こう佐藤にも言ったのである。

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