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儚き想い、されど永遠の想い
270部分:第二十話 誰にも言えないその五
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第二十話 誰にも言えないその五

「私も聴いていて何度素晴しいと思ったか」
「わからないというのですね」
「そうです。ただ」
「ただ?」
「残念なことにです」
 ここからは顔を曇らせてだ。そして言ったのだった。
「若くしてこの世を去っています」
「それは聞いたことがありますが」
「労咳でした」
 まただ。真理のことに気付かないまま言ってしまったのだった。
「それで、です」
「労咳・・・・・・」
「労咳にかかってしまえばどうしようもありません」
 婆やの話は続く。
「まことに」
「そうなのですね」
「私の知り合いにもいました」
 そのだ。労咳にかかった者がだというのだ。
 そのことをだ。真理のこととは思わないうちにだ。婆やは話していくのだった。
「その誰もがです」
「お亡くなりになられたのですね」
「中には若くしてかかってしまった人もいました」
 悲しい顔でだ。真理に話す。
 そしてその表情がだ。真理をさらに悲嘆に入れた。
 しかしだった。婆やは話をさらに続けるのだった。
「その人もです」
「そうなのですね」
「はい、そうです」
 婆やの顔もだ。沈みきっていた。
 そうしてだ。こうも言ったのだった。
「あの様な病があることが恨めしいです」
「しかしあるのですね」
「病はこの世から消えはしません」
「それは決してですね」
「はい。運命と言っても受け入れられるものではありません」
 婆やにとってもだ。それはだった。
「あれ以上忌まわしいものはありません」
「本当にそうですね」
「だからこそです」
 ここでも気付いていないまま話す婆やだった。
「お嬢様は美味しく栄養のあるものをです」
「食べればいいのですね」
「そうして下さい。宜しいですね」
「はい」
 真理も今は頷いた。しかしだ。
 表情は暗くなったままだった。そうしてだ。
 夜になりだ。義正を出迎えた。義正は真理の顔を見てだ。
 すぐにだ。こう尋ねたのだった。
「何かあったのですか?」
「何かとは?」
「お顔が暗いです」
 そのことを見抜いての言葉だった。
「どうされたのですか?」
「別に何も」
 真理はこう返しただけだった。
「ありません」
「ならいいのですが」
「お嬢様は今日はです」
 婆やがだ。義正に真理のことを話した。
「お医者様のところに行かれてです」
「お医者さんのですか」
「そうです。脚気についてお伺いしました」
 真理は嘘を吐いた。脚気ではなく労咳のことだ。だがそれはあえてこう言ったのだ。
「年老いたお医者様にです」
「そうだったのですか。脚気のことを」
「はい、そうです」
 婆やは何も知らないまま答える。
「お嬢様も気にされているそうで」
「脚気は確か
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