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儚き想い、されど永遠の想い
269部分:第二十話 誰にも言えないその四
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第二十話 誰にも言えないその四

 それを前にしてだ。真理は婆やに尋ねた。
「あの、これは」
「どうもお召し上がり下さい」
「何か身体によさそうですね」
「そう思いまして」
 シェフに用意してもらったとだ。こう答える婆やだった。
「では暖かいうちにです」
「はい、そういえば」
 パンも見た。そのパンは。
 黒い。そのパンを見てまた言う真理だった。
「黒パンですか」
「黒糖は身体にいいそうなので」
「それでパンもですか」
「バターもどうぞ」
 それに加えてだった。
「ヨーグルトもありますし」
「何か今日は違いますね」
「まずは食べることからですから」
 こう真理に言うのである。
「ですから」
「そうですね。何につけてもですね」
「美味しくて栄養のあるものです」
 婆やはこのことをあえて強調して話した。
「それがいいのです」
「では。今は」
「召し上がって下さい」
 婆やはだ。さらに言った。
 そしてその言うことはだ。彼女は意識せずともだった。
 真理にとってはだ。心に突き刺さる言葉だった。それをだ。
 今言ってしまったのだった。
「全ての病は美味しくて栄養のあるもので癒せます」
「そうであればいいのですが」
 聞いてからだ。こう言った真理だった。
「本当に」
「とにかくです」
 婆やは彼女にしては珍しく、しかし致命的な失態を犯しながらだ。真理に話した。
「召し上がって下さい」
「わかりました。それでは」
 真理は婆やのその何気ない言葉にだ。心を沈ませてしまった。今の彼女にはそうした普通なら何でもない言葉もだ。突き刺さるものだった。
 そしてその突き刺さったものをそのままにしてだ。真理はその馳走を食べた。だがその顔は余計に青くなり白くなっている程だった。
 その顔でだ。彼女は食べ終えてだった。
 婆やにだ。こう言ったのである。
「御馳走様」
「味はどうでしたか?」
「見事でした。シェフにそうお伝え下さい」
「わかりました。それでは」
 婆やも真理のその言葉に頷く。そしてだ。
 そのうえでだ。彼女にこうも話した。
「ただ。今日は」
「旦那様でしょうか」
「旦那様のお帰りは何時になるでしょうか」
「今日は遅くなるそうです」
 真理は婆やにこう話した。
「ですから今日は今から」
「音楽でも聴かれますか?」
「はい、そうします」
 こう答えるのだった。
「今は」
「左様ですか。では音楽は何にされますか」
「日本のものがいいですが」
「日本のもの。それなら」
「お勧めはありますか?」
「滝廉太郎はどうでしょうか」
 婆やが勧めるのはこの音楽家だった。近代日本における天才と言われている。
 その彼はだ。どうかというのだ。
「隅田川等は」

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