266部分:第二十話 誰にも言えないその一
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第二十話 誰にも言えないその一
第二十話 誰にも言えない
真理の吐血のことは誰も気付かなかった。そしてだ。
吐血もその時だけだった。何もなかった。
咳すら出ずだ。彼女はまずは安心した。しかしだ。
こっそりと医者、知り合いの信頼できる医者に吐血の話を聞いた。自分のこととは言わずにだ。
するとだ。その医者はこう言ったのだった。
「ああ、それはですね」
「危ういですか」
「はい、危ういです」
これが真理への言葉だった。
「やはりかなりの確率で」
「労咳ですか」
「まずはそう思っていいです」
労咳は死の病だ。真理もそのことはよく知っていた。
もっと言えば吐血が労咳の病状の特徴であることも知っていた。つまり彼女は今自分の死について無理にでも突きつけられていたのだ。
だからこそ医者に話を聞いた。そうしてだった。
そこでだ。この絶望の言葉を告げられたのである。
そしてだ。医者は真理にさらに話した。
「労咳でない場合でもです」
「危ういのですね」
「御身体をかなり壊されている何よりの証です」
「左様ですか」
「ですがやはり第一に考えられるのは」
「労咳ですね」
「それを置いて他にはありません」
こう真理に話すのだった。
「そして労咳になればです」
「最早それだけで」
「死に至ります」
最早どうしようもない、医者でもだというのだ。
「後はせめて療養されるしかありません」
「そうですね。私もそう聞いています」
「若しお知り合いが吐血されたなら」
まさか真理がそうだとは思わずにだ。医者は彼女に話す。
「その時はです」
「どうすればよいでしょうか」
「せめて」
最早だ。死ぬことを前提としての言葉だった。
「余生を静かにです」
「過ごすと」
「それしかありません」
真理にとってだ。最も聞きたくないことが告げられた。そうした形になった。
「あの病は誰にも治せませんから」
「そうですね。本当に」
「人はやがて死にます。しかし」
「労咳は」
「あの病はそれをさらに確実なものにしてしまいます」
結核からは逃れられない。そうだというのだ。
「真に難儀な病です」
「そうですね。あの病は」
「脚気は何とかなりました」
食事療法によってできることがわかったからだ。しかしこの時代はまだだった。
労咳はどうにもならず。医者は言った。
「医者として無念です」
「労咳がどうにもならずに」
「はい、だからです」
それでだと真理に話す。
「どうにかできればどれだけの人が助かるか」
「そうですね。本当に多くの人が亡くなっています」
自分もそうかも知れないとだ。真理は言えなかった。
それは心に留めてだ。医者の
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