巻ノ百二十三 山を出てその三
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「そのうえでの出陣じゃ」
「左様ですか」
「それではです」
「我等に止める理由はありませぬ」
「それも一切」
村人達は再び幸村に答えた。
「我等は見送らせて頂きます」
「むしろここは我等の方がです」
「真田様の出陣を祝わせて頂きます」
「ご武運がある様にと」
「何と」
村人達の今の言葉にはだ、幸村だけでなく十勇士や大助までも驚いた。それで彼等は村人達に対して慌てた口調でそれぞれ言った。
「そうせずともよい」
「別にな」
「出陣の祝いなぞ」
「我等は只の浪人」
「山に幽閉されておったな」
「その様なことは関係ありませぬ」
村の長老が手振りまで入れて言う彼等に笑って返した。
「全く」
「そう言うが」
「幾ら何でもじゃ」
「我等の様な者達にそこまで」
「祝いなぞ」
「我等の気持ちです」
長老は遠慮しようとする彼等にまた言った、笑顔は変らない。
「真田様とご一同に対する」
「それでなのか」
「それはよいと」
「そう言うのか」
「はい」
その通りだという返事だった。
「ですからどうぞお受け下さい」
「酒はどんどん持って来ます」
「粗末ですが食いものも」
「遠慮せず飲んで食って下され」
「宴に入って下され」
「そこまで言うか。それならば」
幸村は村人達の心を感じ取った、それは何よりも深く熱いものであった。その深さと熱さがわかったからだ。
村人達にだ、笑い意を決した顔で返した。
「受けさせて頂く」
「ではです」
「共に飲み食ってです」
「賑やかに過ごしましょう」
「そのうえで」
「うむ、翌朝大坂に発つ」
宴の後でというのだ。
「そうする」
「わかり申した、ではです」
「我等も酒を出しまする」
「それで好きなだけ飲みましょうぞ」
「美味いものも食って」
「ではな」
幸村も応え十勇士も大助もだった、彼等はそれぞれの妻子も呼んでそうしてだった。思う存分飲んで食って楽しんだ。
当然幸村も痛飲した、彼は飲みつつ長老に言った。酒は彼が盃に入れてくれたものだ。
「拙者はこれでな」
「はい、大坂に向かわれ」
「戦いそしてな」
「最後の最後まで、ですか」
「生きてな」
そうしてというのだ。
「必ずな」
「すべきことを果たされますな」
「うむ」
その通りという返事だった。
「そうする」
「死ぬおつもりはないですな」
「真田にそうした考えはない」
「あくまで最後の最後まで生きて」
「その果たすべきことを果たすのじゃ」
こう長老に話した。
「何が何でもな」
「左様ですな」
「だからな」
「死なれることはですな」
「無駄に命は捨てぬ」
長老にもこう約束した。
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