巻ノ百二十三 山を出てその二
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「ここはな」
「恩を忘れてはならぬ」
「それも武士ですな」
「武士としての道の一つ」
「恩に報いるのも」
「そういうことじゃ、伊賀者達が見ていても承知のうえ」
笑ってだ、幸村は言い切った。
「ではな」
「それでこそ殿」
「我等の主」
「それではです」
「我等も」
「伊賀者達が止めるのならな」
幸村はこの時こうも言った、やはり笑ったまま。
「よいな」
「一戦交えても」
「そうしてもですな」
「大坂に入る」
「そうしますか」
「どのみち戦になる、ならじゃ」
それならというのだ。
「行くぞ」
「あえてですな」
「大坂に」
「そうしてでも」
「行きますか」
「そうする、どちらにしても恩を返すのは」
それはというのだ。
「何としてもせねばいかん」
「では」
「これから行きましょうぞ」
「そうしましょう」
「今から」
「村に」
十勇士達も大助も賛成した、そしてだった。
屋敷にあるもの、酒も食いものも財になりそうなものも全てだった。持って行ってそうしてだった。
村人達を神社の境内に集めてだ、幸村自ら言った。
「この度拙者は決めた」
「大坂にですか」
「大坂に行かれるのですな」
「知っておったか、確かにな」
村人達の返事を聞いてだ、幸村は驚きと共に応えた。
「拙者は今からな」
「はい、これより」
「大坂にですな」
「行かれますな」
「そうされますな」
「これまでのこと礼を言う」
幸村は村人達に深々と頭を下げて礼を述べた。
「何かとよくしてもらった」
「当然のことです」
「真田様のことを思えば」
「常に我等によくしてくれたではないですか」
「それならです」
これが村人達の返事だった。
「我等もです」
「すべきことをしただけです」
「ですから」
「このことはです」
「お気になさらずに」
「特に」
「恩だの礼なぞ」
「そうしたことは」
全く、というのだった。
「九度山を出られるのですな」
「そして大坂に向かわれる」
「そのうえで戦に加わられるのですな」
「そのつもりじゃ」
幸村は村人達に正直に答えた。
「そして大坂の城を枕にな」
「討ち死にされるのですか」
「そのおつもりですか」
「その覚悟は出来ておる」
十勇士、そして大助を後ろにして言い切った。
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