262部分:第十九話 喀血その十四
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第十九話 喀血その十四
「そう思っています」
「では今から少し」
「いえいえ、婆やがそう思っていましても」
それでもだとだ。後にこうした言葉が言葉としてでなくとも続く。
「実際はそうはいかないでしょう」
「やはりそうですか」
「はい、そうです」
婆やはこうは言ってもだった。
そのうえでだ。こうも言うのだった。
「大正も急激に変わっていますから」
「だからですか」
「そうです。ですから」
望み通りにはいかないという婆やだった。
「いい意味でも悪い意味でも」
「どちらの意味でもですか」
「はい、そうです」
まさにそうだと。真理に話すのである。
「期待もしていますが」
「不安もまた」
「あります」
それは否定しないのだった。
「どうしても。ただ」
「それでもですね」
「期待の方が大きいです」
婆やはこのことも微笑んで話す。
「今もです」
「明治の頃も今も」
「流石に日露戦争の頃は不安でした」
「あの頃はですか」
「確かに。婆やも戦争はすべきと考えていました」
日露戦争に関しては当時の臣民のほぼ全員が開戦を支持していた。最早露西亜との戦いが避けられないことがわかっていたのだ。
そしてだ。露西亜を倒さなければ日本が倒される、そのこともわかっていたからだ。誰もが開戦しなくてはならないと言っていたのである。
そしてそれはだった。婆やもだったのだ。
しかしだ。それと共にだったのだ。
「果たして。勝てるかどうか」
「それはだったのですね」
「露西亜、今はソビエトでしたか」
「どちらにしろですね」
「同じです。あの国はやはり露西亜です」
ソ連についてはこう考えている婆やだった。共産主義への幻想はなかった。
「あの国はあまりにも大きいので」
「戦い勝つことは」
「難しいと思っていました」
「そうですね。誰が戦いを決意していても」
「はい、そうでした」
日露戦争で勝てると思っている国はなのだった。
「とてもです」
「勝てるかどうかはわからなかった」
「その時は流石にだったのですね」
「不安で仕方なかったです」
それはだ。どうしてもなのだった。
「しかしそれでも」
「勝てましたね」
「奇跡に思えました」
日露戦争に関してはそうだというのだ。
「勝てたのですから」
「軍人の方々も頑張ってくれて」
「それでようやくでした」
奉天、そして日本海においてだ。勝ったからなのだ。
それでなのだった。あの戦争は。
「あの時は。子供達が生まれた時の様に」
「嬉しかったのですね」
「あの時の喜びは今も忘れていません」
実際にだ。婆やの今の顔は微笑んでいた。
その暖かい微笑みでだ。さらに言うのだった。
「まさに奇跡でした」
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