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提督はただ一度唱和する
残酷な現実
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幸を、酒の肴にすることだけに熱心なのだ。どいつもこいつも、このご時世に娑婆への帰還を果たしている。新城は何とか巻き込めないものかと、脳細胞を回転させた。
「お前は満足なのかよ!! こんな所で腐ってて、見世物になってんのにっ!!」
 まだ終わらないのか。古鷹を振り払う摩耶が、なお新城に詰め寄る。艤装は展開していない。もう、自棄だ。新城はすべてを放り投げた。胸ぐらでも掴もうと手を伸ばす摩耶の機先を制し、言葉を投げる。
「何が不満だ」
「全部だ!!」
 新城はため息をついた。同僚はしばらく所か、もう戻らずとも済むように仕事を見つけているはずだ。机の煙草に手を伸ばし、火をつける。この戦争でよいことがあるとすれば、喫煙の習慣が見直されたことだと、義父が楽しそうに言っていた。世の悪徳の殆どを、新城は彼から学んでいる。
「座れ」
 義兄夫妻にしかられそうだなと、思った。今日は、いや、彼女らといると、どういうわけか私的な部分ばかりが浮かび上がる。それ以上は余計だと、新城は煙を深く吸い込んだ。部屋が一気に靄かかったようになる。
「釧路の顛末を知ったか?」
 素直に適当な椅子に腰掛けた摩耶が俯き、歯ぎしりする。古鷹は新城から心持ち距離を取った。だが、摩耶に寄り添うような位置だった。
「軍広報で」
 古鷹が代わりに答えた。何が書かれていたかは、新城も知っている。将校の義務だ。それを見た艦娘がどう思うか。まあ、想像は出来る。
「戦闘詳報は?」
「・・・・・・私たちには」
 何をどう扱ってよいかを迷うような集まりだ。当然だろうと思う。新城は立ち上がり、他人の机を漁った。文句を言われる筋合いはないと、決めつけている。
「読め」
 迷ったが、摩耶に渡した。単純に近かったからだ。古鷹が身を乗り出して覗き込んでいる。摩耶の手を支えのようにして、不思議そうな顔をしていた。健気なものだと思う。自分のしようとしていることを思って、死にたくなった。偽善だ。しかし、もう始めてしまった。どうとにでもなれと思った。どうせ自殺する度胸などないのだ。
 無言で、ページを手繰る音だけが煙でくぐもって聞こえた。新城は二本目の煙草に火をつけた。
「よくわかんねぇ」
 一応は最後まで目を通した摩耶が言った。新城も期待していない。古鷹も同じようだった。
「深海棲艦は海上に展開していた迎撃艦隊の警戒をかいくぐり、海底を歩いて移動していた。釧路は奇襲を受け、避難民が多数犠牲になった。陸軍は、多大な損害を出しながらも後衛戦闘に成功し、宇円別変電所付近で深海棲艦を撃退。史上二番目に少ない被害で、戦闘を終えた」
 新城は姿勢を崩し、二人を見た。
「艦娘はこの奇襲に際し、果敢に防衛を試みるも全滅。極めて初期の段階であり、戦闘そのものに寄与した影響は少ないものと思われる」
 簡単な要約で
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