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提督はただ一度唱和する
残酷な現実
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の強迫観念であった。新城も例外ではない。
「だから何だ。あたしらは兵器だ。こんな所でお飾りになっているなんて耐えられないんだよ!」
「兵には注意しておこう。それと、防寒具の配布も優先させる」
 彼女の衣装を観察しながら、新城は言った。彼女は怯む。しかし、視線に感情どころか一切の熱さえも込められていないことに気づき、顔を赤らめる。面倒臭い。率直に、新城はそう結論した。
「そういうことを言ってんじゃねぇ!!」
 これがかつて、大戦を戦った軍艦のなれの果てか。新城という人間にしては珍しく、彼女自身を責める気持ちは生まれなかった。娑婆に出てきたその瞬間から兵士であることなど、期待する方が間違っているのだ。
「苦労をかけるが、宛がわれた宿舎からなるべく出ないように。君たちはどうも、魅力的に過ぎる」
「話をすり替えんなよっ!」
 まあ、可愛いといえるのではないか。真っ赤になって怒鳴っているいる重巡摩耶を、溝川でも覗き込んでいるような目で眺めながら、そんな感想を持つ。莫迦莫迦しかった。際限なく。
「駐在官、」
「摩耶だ!」
「摩耶駐在官。君たちには待機の命が既に達せられている。僕にはそれを無視して君たちに便宜を図る、いかなる理由も存在しない」
「理由なんか、深海棲艦に上陸されてるってだけで十分だ!」
「それは君の意見に過ぎない」
 帰ってくれないかな。恐らく初めて、新城は軍人であることが苦痛だった。彼がいるプレハブの建物は、臨時に将校が職務を行う、事務所のようなものだった。同僚が彼と同じように書類を片付けていたはずだが、摩耶が姿を見せるなり、一人、また一人と姿を消していた。北海道は既に冬に突入している。雪はまだだが、外が快適とだと思う人間は少数だろう。
 好意を持たれていないことも、期待したこともないが、流石にこれはと、思わないではない。
 扉が開いた。別に出入り自由というわけではないのだがな。一応は軍の様々な書類を扱う場所である。投げやりな気分で、どうでもいいことを考えつつ、助けが来たものだと歓迎する。誰も見ていない上に、見捨てられたのだ。自分だけが職務に忠実であるなど、不公平だと思った。
「やっぱりいた。もう、摩耶ちゃん。迷惑だよ」
 否定する理由がない。だから、新城は沈黙した。子供の頃は、何か理不尽なことがあるたびにこうして過ごしていた。人間が成長するなど、幻想に過ぎないのだとよくわかる。
 同じ重巡である古鷹が、新城に目礼する。口元を引き結び、新城は厳めしい顔で頷いた。内心、大いに喜んでいる。古鷹は柔らかい表情で、摩耶に近づく。摩耶は新城を睨みつけたままだ。
「ね、帰ろう? みんな心配しているよ?」
 実に羨ましい。このときばかりは、自分にもそのような仲間が欲しいと思った。脳裏に浮かぶのは、ろくでもない奴ばかりだ。友人の不
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