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提督はただ一度唱和する
犠牲を糧に
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なった。千早に比べれば、子犬が唸っているようなものだ。重巡とて、恐ろしくもない。
「ああ、無駄だ。奴らに餌を与え、燃料、弾薬まで呉れてやる。むしろ、害悪といっていい」
「あいつらはっ!」
「彼女らが、どういうつもりであったかは関係ない。行動には結果が伴う。その責任は取らねばならない」
 悲鳴といってよいほどの怒声すら、新城は無視した。彼女らは彼の監督下にある。手加減をする理由はなかった。
「腹を満たし、燃料と弾薬を補給した深海棲艦が、今この北海道に上陸している。その意味がわからないはずがない」
 やはり可愛いものだ。押さえ切れぬ興奮で、大きな目から涙が零れようとしている。自分はよっぽどの外道に見えているのだろう。軍人とはそんなものだ。陸軍に所属したことに、思うことがないでもなかったが、艦娘を見ていると軍人でよかったとすら思う。
「連絡は出来るか?」
 重巡摩耶は、唇を噛んで俯く。結論など、わかりきっていた。新城は無言で待った。摩耶も答えない。それが答えだ。
 だが、容赦はしない。
「・・・・・・さっき、最期の通信があった。数え切れない位、イ級が来て、もう護りきれないって、ごめんなさいって」
 摩耶が根負けした。それは仲間の、その死の、献身の、存在を否定したということだった。それでも涙を堪えているのは評価に値した。新城は言った。
「報告は正確にしろ」
 摩耶の顔が上がった。真っ直ぐに新城の目を貫く。彼女は背筋を伸ばし、大声で怒鳴る。
「稚内駐在艦隊は通信途絶!! 残留した艦娘は全滅の模様!! 敵は無数の駆逐艦イ級!! 敵戦力の総数及び構成は不明!! 稚内は落ちた!! これでいいかっ!!」
 どうやら真面目にやっているらしい。その目に憎しみはあったが、誠実だった。彼女らを戦場に放り出した間抜けは、気が狂っているに違いない。自分もそう変わりはないと思い、新城は一つ頷く。
「では、飯を食え。向こうに用意してある。兵に言えば、渡してくれるだろう」
「こんな時に飯かよっ!」
「戦争だ。むしろ、腹が膨れねば始まらない。さ、急げ。彼女らを食っている間は、奴らの進軍も止まるだろう。僅かではあるが」
「お前ぇっ!!」
「もうやめよ。摩耶ちゃん」
 別の方向を警戒していた艦娘が近寄って、摩耶の肩をそっと押さえる。左目の色が違う、というよりも、仄かに光っているようだ。
「味わっている暇はないぞ。君も、全員で食事だ。陸での警戒は、我々の方が得手だ」
「ありがとうございます。みんなを呼んできますね。ね、行こ?」
 彼女は古鷹だったか。穏やかな性質らしいが、新城に嫌悪感すら見せなかった。笑顔で頭を下げ、摩耶の手を引く。一瞬、新城が後ろに組んで隠している手に視線を向けた。摩耶は古鷹の手を振りほどき、新城を睨みつける。
「あいつらは絶対に無駄
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