厄介は一度に
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なった港町を、新城は焼いた。
そのままにしても、どうせ深海棲艦の腹に収まるだけだ。
躊躇いなど欠片もなかった。
逃げ出した住民の安全は確保した。しかし、北海道司令部は混乱の極みにあり、深海棲艦の上陸を可能ならば阻止し、不可能ならば遅滞戦闘を試みつつ、合流せよといってきた。
冗談ではない。
匪賊討伐のために出てきたのだ。彼女らに有効な兵器は己の肉体と、捜索補助で連れてきた三匹の猫のみである。
猫、と呼んでいるが実際は虎の類だ。しかも、絶滅したサーベルタイガーに酷似した外見。性質は犬に近く、敵に対しては獰猛。味方には慈愛に溢れた種族である。
彼らは軍が認めた、深海棲艦と戦う為の装備である。
深海棲艦というのは、とにかく投射武器というものが効きにくい。有効な順に、投石、弓矢、弩、前装式、後装式、その他である。
後装式になると、もはや深海棲艦を殺す役には立たない。が、戦争初期において警察の所持するニューナンブとショットガンが、一定の戦果を上げている。
投石や弓矢は人間と同様に有効だが、訓練に時間がかかる。そこで対深海棲艦装備として採用されたのが前装式小銃な訳だが、これも頼もしいとはとてもいえない。工夫が必要だった。
具体的には、不可避である砲を抱えた不思議生命体との殴り合いをどうするかだ。
その回答例の一つが動物の利用であり、剣牙虎なのだが、実をいって彼らは実験室で再現された人工生物では無い。深海棲艦の出現で地球の生態系は激変したが、その激変した一部が彼らである。
説明出来る人間が一人もいないので事実だけ述べると、海でアノマロカリスが釣れたり、ヨコッシーが重要な観光資源になるような現象のことだ。彼らと人類との接触は艦娘よりもよほど穏便に進んだが、中でも剣牙虎は特に友好的な出会いであった。
深海棲艦によって文明を破壊され、山間部に逃げ込んだ一部の人類が、彼らに保護される形で共生し、友情を育んだのだ。新城もその一人であり、幼少期に一匹の猫の世話になった。個人的飼い猫でもある千早は、彼女の娘である。
彼らを戦争に巻き込むことについて意見がないでもなかったが、文句どころか概ね好評であるらしく、実に頼もしい戦力として犬よりも活躍している。
しかし、このような貧乏籤とも呼べない状況は彼女も本意ではないだろう。新城とてそうだ。
とにかく、陸上におびき寄せるしかない。新城はそう結論した。食糧はともかく、資材の補給は出来ないはずだ。であれば、脅威の度合いは猫よりも劣る。
幸いといっていいのか、軍の演習場がある。装備の入手は可能だろう。上手く行けば、味方との合流も。
もっと詳細な地図はないかと、新城が机をひっくり返し始めたとき、控えめなノックの音が聞こえた。
新城は取りあえず姿勢を正すと、返事をする。
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