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提督はただ一度唱和する
ある秋の日の
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見た目はともかく、彼女らは大戦の記憶を持った兵器なのだ。提督の仕事とは、艦隊のマネジメントと彼女らのケアであるはずだった。
 信頼を失った提督も、裏切った艦娘も、壊れた関係を再構築する暇もなく再出撃を命ぜられる。亀裂は拡がる一方だった。
 なぜなら、問題は提督側にあるからだ。
 潜水艦をオリョール周回か、囮程度の価値と認識していた提督らは、その運用や戦術すら知らなかった。海がいかに広く、索敵が困難であるか知らなかった。駆逐艦や軽巡はただ非力なのではなく、与えられた役割があると知らなかった。彼らは壊滅した海軍の次代を担う存在であり、だからこそ何も受け継いでいないのだと、指導部は知らなかったのだ。
 やがて、些細なヒューマンエラーから撃沈される艦も出始め、戦闘力を喪失した艦隊が撤退を開始。呉に主力を置いたまま、作戦は中止に追い込まれ、連合艦隊は解散した。
 ちなみに、その過程の中に、決断という要素は一欠片も存在しない。
 この後の戦争遂行に、重大な疑義が生まれた。
 だが、これまでの経緯は内部の新たな問題を明らかにしただけである。
 本当の問題は何も解決していない。
 海軍の主力が丸々残っているように、わざわざ誘引した深海棲艦の主力も無傷なのだ。艦娘も提督も帰るべき鎮守府が存在するが、脅威がなくなって現地解散した深海棲艦は、どこに帰るのか。
 海軍指導部の決定を知ったとある中将は、咥えた煙草を落として執務室で小火騒ぎを起こし、左の乳首も無くした。
 別の少将は珍しく満面に笑みを浮かべ、目撃した艦娘は色を無くした。
 言葉を無くした横須賀基地司令官は、再起動と共に救援の準備を全力で始めた。
 もう間に合わないと、彼らは知っていた。

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