第四十八話
[1/3]
[8]前話 前書き [1]次 最後 [2]次話
まず感じたのは、冷たさと全身の痛みだった。
思わず目を開けると、そこは水の中。その中を逆さになって沈んでいた。
舌を出してみると、塩辛い味が口中に広がった。どうやら、ここは海のようだ。
…………沈む。
俺たち艦娘にとってその二文字は、「死ぬ」と同意義の言葉だ。
しかし、嫌な感じはしない。むしろ、実家のような安心感とでも言おうか、そんなものを感じた。
もしかしたら、これから俺が行くところが俺の帰るところなのかもしれない。
…………いや、ダメだろ海の底が帰るところだったら。
海の底は、深海棲艦どもの領域。人間である俺が帰るところではない。
俺はボーッとしてた頭を振ってさっきまでの考えを頭から無くす。しかし、身体はちっとも動かない。抵抗することもできずに、ただただ沈んでいくだけだった。
あーくそが。どうしてこうなったのか全く覚えてねぇ。全身が痛いってことは、多分、轟沈させられたのであろうとは思うのだが…………本気で何も覚えていない。
俺は辺りを軽く見渡してみる。たまに泳いでる魚が見えるくらいで、他には何も見えない。
…………なんというか、海上に比べたら平和だな、と感じた。
見える範囲には深海棲艦も居ないし、それでいてものすごく静か。なんで俺たちが海上で戦ってるのか忘れそうになる。
…………あれだな、「沈む」ってのは、すぐに死ぬって訳じゃ無いんだな。暫くこんな感じで考える時間があるのか。やな時間だ。
…………あいつらは、無事だろうか。
木曾に天龍、冬華や時雨、摩耶さんに長門さん、青葉や…………春雨。
…………ごめん、皆。
俺はそんなことを思いながら、沈んでいく。
沈む。
沈む。
やがて、周りから光が無くなっていった。
見えるのは、俺の姿だけ。
あぁ、俺は、死ぬのか。
俺は直感的にそう思った。だんだんと、痛みも冷たさも感じなくなってきていた。
…………最期の瞬間が、近づいているのだろうか。
俺は自分の両手を見た。
何もやりきることが出来なかった両手。なにかを成し遂げることも、誰かを救うことも、守ることも出来なかった両手。
その両手は、青白い色になっていた。
「うわあああああああああああああああああああ!!」
俺は勢いよく起き上がった。そこは、海の中なんかじゃない、俺が寝ていた医務室のベッドの上だった。
秋の暮れだというのに、寝汗をビッショリとかいて、
[8]前話 前書き [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ