「わたしは……わたしのことが知りたいです」
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気の済むまでアスナにからかわれたのか、いつの間にやらアスナにリズも、神妙な面持ちで二人の少女を見つめていた。ユイが黒髪の少女の手とると、恐らくはユイの視界では大量のメニューが表示されているのだろう、ユイの視線はショウキたちからは見えない中空へ向いていて。もちろん可視化させるわけにはいかないので、困惑したユイに話を聞いてみれば。
「……ありえません。この子には……正体どころか、何もないなんて」
「……どういうことだ?」
「NPCならば必ずあるはずの、『設定』がされていないんです」
いわく。ユイがこの世界ではナビゲーション・ピクシーとしての役割が与えられているように、先の竜人ギルバートを例に出せば、仲間を失い故郷を失いかけた悲劇の武人――などといったように、NPCとてこの世界に生きている以上は、何らかの役割と設定がある。それはショウキたちからすれば、今までの人生と同義の存在であり、それがないということは。
「……生まれたばっかりの子供も同然、ってことね」
「はい。本来ならば、このような状態で実装されることなどありえません。何かの不具合かも……」
「つまり」
たった1ユルドで何処かへ連れていってほしいと頼む謎のクエストも、クエストに関わるNPCが正常に動作するか判断するテストクエストということで、それもまた少女に設定がないことの証左だった。そしてショウキたちに説明するためのユイの言葉をもちろん聞いていた、当の無表情を貫く少女からの言葉に、困惑していた一同は沈黙せざるを得なかった。
今ならその無表情の正体も分かる。感情というものが設定されていないのだから……それでもどこか、悲壮感を漂わせているような雰囲気を感じさせて。
「わたしには、何もなかったということでしょうか」
「…………」
そんな少女の問いかけに、誰も何も答えることは出来なかった。何と答えてやればいいか、分からなかったからだ。自分が何者か知りたいともらす無垢な少女に、お前は何者でもなかったなどと残酷な真実を告げるしか出来ないというのに。
「……ええ、そうね」
「ちょっと……リズ」
「――でも」
そうしてショウキが何を言うべきか迷いあぐねていた間に、背後にいたリズが決心したような面持ちで語り出す。あまりにもはっきりとした物言いに、たまらず横にいたアスナが諌めようとしたものの、まだリズの言葉は続いていた。
「だけど、さ。陳腐な言い方になるけど……これから、一緒に『あんた』を作っていかない?」
――それが、少女にとっては天啓となった。
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