第三章 敦子、目覚める
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を積んで知名度を上げれば、仕事の幅も広がるだろう。
バラエティ番組に出てみたり、
ナレーションの仕事なんかも楽しそうだ。
動物ものとか、子供のお使いものとか。
ほんと、ただ目指しているというだけで、ドキドキワクワクがとまらない。
もちろんそういう世界に入ったら入ったで、厳しいことも腐るほどたくさんあるのだろう。
リテイク百回食らって、でも監督はなにが悪いのか全然教えてくれない、とか。
もしくは、新人でいきなり注目を浴びたわたしに嫉妬した先輩たちからの壮絶なイジメとか。
でも、なにがあろうとも、絶対に耐えてみせる。
どんなに辛いことだって、喜びに変えてみせる。
声優になれないことにはどうしようもなく、なれるかどうかは分からないのだけど。
でも、なれるという可能性を高めていくことは出来る。
そのために、いま出来ることを頑張るだけだ。
一人でひたすらトレーニングを積むことだけだ。
高校を卒業したら養成所に通わせてもらうつもりだけど、いま出来ることはそれしかないのだから。学校に演劇部もないし。
と、内面に闘志めらめら燃やしながら発声練習を終えた敦子は、次のトレーニングのため机に置いてあった一人芝居用の台本とICレコーダーを手に取った。
録音スタートさせると、台本に書かれている台詞を、感情を込めて読み始めた。
「金子、
お前は、本当に先生たちに迷惑をかけ続けたやつだったよ。
人の弁当は勝手に食べる、女子のスカートはめくる、レンガが積まれてりゃ崩す、せこいことばっかりやっていたな。
でもな、金子、覚えているか。
修学旅行で、他校と喧嘩したこと。
あれ、山田のためだったんだよな。大暴れしたのは。
あいつの……親友のチョンマゲを笑われて、黙ってられなかったんだよな。
友の悔しさを自分の悔しさに感じる、最高に優しいやつなんだよ、お前は。
卒業、おめでとう。
みんなより一足先に社会という荒海に出るお前だけど、きっと頑張りぬけると信じ……」
「この台本、つまんない!」
録音停止。台本を机の上に投げ捨てた。
誰が書いたんだ、これ。
読んでいて、あまりに辛すぎる。
つまらなくて辛すぎる。
つまらなさ神憑り的だ。
途中までとはいえ、せっかく録音したのだし、勉強は勉強だから後で聞いてはみるけれど。
最初から、忍耐力トレーニングと書いていてくれれば、もう少しは続けられたかも知れないのに。
しかしほんと酷い内容のテキストだったな。杜撰もいいところだ。
卒業式、教室で生徒へかける言葉、というような場の映像は容易にイメージ出来るんだけど、感情のイメージがまったく出来ないよ、こんなんじゃ。
……男
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